最終章

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 こういう感覚、懐かしい……いや、実際にはこんなことはしたことがない。こんなことをしたのは小学生までで、そのときはまだ桃真と出会ってはいなかった。それなのに、記憶の奥底に大事に仕舞っていたものを、愛おしく眺めるような気持ちがしているのは何故だろう。  波のように揺れるレースのカーテンの影。ああ、しまった、カーテンを荷物に積み忘れていた……  思ったとき、視界が桃真に覆われた。自然な流れで桃真の背中に腕を回す。するとまた自然な流れで、これしかない部品と部品が組み合わさるように、胸と胸がふれた。がらんどうの部屋に、肌が擦れ合う音は大きく響き渡る。 「ずっとこうしていたい」  桃真がぽつりと呟いた。 「うん」  空っぽの部屋の中で、満たされていく。  頭上に流れる波を、穏やかな水底から見上げる。                            完
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