第一章・桃真

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 嫌いな奴の大好きなにおいを求めて、洗濯カゴをひっくり返す。  まだ洗っていなくてよかった。ワイシャツ、下着、ハンカチ、タオル……。二人分のそれがごちゃごちゃに突っ込まれているけれど、においをはっきりと嗅ぎ分けることができる。汗とはまた違う、独特の。発情したオメガにしか嗅ぎ分けられない、つがいのアルファのにおい。息を吸って、吐いた瞬間にまた吸いたくなる。それどころかずっと吸い続けていたくなる。過呼吸になってしまいそうなほど。  取り出した洗濯物を抱えて、寝室に向かう。途中、廊下で一、二枚、何か落とした気がするけれど、構わない。抱きしめた洗濯物とともに、ベッドに倒れ込む。  発情期の熱はまるで、決して脱ぐことができない羽衣を纏わされているようだ。どれだけ散らそうともがいても、まとわりついてくる。  うつぶせになって、下に敷いたシャツに顔を埋める。左手でシャツをかき抱きながら、右手を下半身に伸ばす。下から上へ一往復しただけで、ぼたぼたぼた、と、愛液が零れ落ちる。駄目だ。ぐずぐずになりすぎて『ここ』ではもう感じることができない。  後ろの穴に手を伸ばす。濡れた指を突き入れると一瞬は満たされるものの、すぐにそれを上回る飢えに襲われる。  早く。  早く、早く、早く……!  何やってんだあいつ。許さない。こんな状態で一体いつまで……  もう一度呼び出してやろうとスマホに手を伸ばしかけたとき、ガチャリ、と、玄関のドアがあく音がした。 「博巳!」 「ただいま」か「桃真」か。何か言っているような声は聞こえたけれど、被せるように言ってやった。というか、あいつが何を言おうが関係ないのだ。どうでもいいのだ。あいつの利用価値はひとつしかないのだから。 「博巳! 博巳博巳博巳ひーろーみー!」  バタバタバタ、と近づくにつれ大きくなる足音に比例するように声を荒げる。 「桃真、大丈夫?」 「大丈夫?」  顔だけ博巳の方に向け、睨みつける。
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