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十二年前。
高校に入って初めてのクラスで、隣の席だったのが鷲崎(すざき)博巳だった。隣の席、という何となくの流れで、初めての昼食を一緒に取った。
示し合わせたわけではないけれど、同じバレー部を選んでいた。帰り道は同じ方向だった。それだけで一番仲がいい友達、になれた。
初めての中間テストでは、せえの、で、成績を見せ合った。数学は博巳の方が、英語は桃真の方がよくできていた。二人合わせると最強なのにな、と、博巳が言った。本当にそのとおりだ、と、思うのと同時に、最強、とかいうガキっぽいワードが妙にツボった。
博巳は身長が一九〇センチ近くあり、桃真より二十センチ近く高かった。それなのにあまり高い、と感じたことがないのは、博巳が猫背気味だったからだろう。そして博巳自身も、自分の身長の高さをそれほど自覚していないようだった。
ほぼ言いがかりめいた説教を先輩から食らっている博巳を遠目に見たとき、その身長差に、先輩が滑稽に見えた。本来なら、博巳なら一発に先輩を威圧してやれるはずだ。部活のやりがいといったら後輩をいじること、みたいな先輩なんか恐るるに足らないはずだ。それなのに同学年の中で、博巳が一番先輩達にペコペコし、パシリにされることも多かった。
「やっぱり先輩ってすごいなあ」
一年対二年の対抗戦で、当然ながらボコボコにされた帰り、悔しいというより負けるとわかってる試合をやらされる理不尽さに憤慨していた桃真を尻目に、博巳はそんなことを言った。負け惜しみ、というより、心底すごい、という風に。
「何がすごいもんか。つーかすごくて当然だ、二年なんだから。あんなのただのマウンティング試合じゃないか。先輩サマに逆らうな、っつー」
そう教えてやっても、
「ああ、そうかあ、すごいなあ。桃真、そんなことに気づくなんてすごいなあ」
怒る様子はなく、ぽやんとしたことを言うのだ。
自分の方がおかしいのだろうか。
博巳といると、今まで表だと思っていた服を実は裏返しに着ていたことに気づかされたみたいに、ひやりとすることがたびたびある。だから他の奴らと話して、ああやっぱりこっちが正しかった、と、あらためて認識あわせをする。
周りの目線が気になって、ハリネズミみたいに過敏になっている自覚はあった。
それはきっと、桃真がオメガという引け目があるからだ。
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