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「それほどのものを持っていて、否定できるはずもないでしょうに」
「でも……」
それでも魔王には、魔王にだけはなりたくないんだ。
何故かリーレンの姿を思い浮かべながら、ユノは強くその称号に対しての拒絶を示す。
それがバレると人の世界との離別を余儀なくされる、それ以外にも否定したい理由がある気がした。
だがその理由とやらはユノの中の奥の奥、ユノすら分からぬ場所にて眠り、もやもやとした気持ちが胸中を占める。
「もうすぐ目的地です。これからはこの学園の教師の一人ですので、ご注意ください」
リージャの言葉に身を引き締め、ぐっと握りこぶしを作る。
逃げ出したい気持ちに鞭打ちトンと自身の胸を握った拳で打つと、良いかと伺うリージャに頷いた。
予想通り、リージャの後に続き入った教室ではユノが姿を見せた途端水を打ったような静けさに包まれた。
かと思えばこそこそと友達同士でユノをチラチラと見ながら噂し、試験前であるはずの雰囲気が払われる。
「ユノ!」
と、気まずさを感じ床に行こうとした視線が聴こえた声の主を探し、空色の瞳と目が合う。
「ザグラ!」
パッと表情を輝かせ、ユノはザグラとリーレンと合流する。
学園の結界に弾かれた所を目の当たりにしたはずなのに、こうして態度の変わらぬ友達に感謝しながら、視線を集めながらも後ろの方の席に座った。
「さて、皆さん揃いましたね。そろそろ時間ですので、必要な物以外は仕舞ってください」
この教室の試験官は、そのままリージャが行うらしい。
彼の声に机の上に置かれていた物を皆仕舞いだし、筆記用具のみが置かれる。
「では今から、試験用紙を配ります」
筆記は、基礎学校で習ったことが主だ。
地理に歴史、算術、基本的な魔法学など。
それらを時間を分けて試験し、午後は場所を変え行われる。
少人数のグループに分けられそれぞれで場所を移動するため、残念ながらザグラともリーレンとも別れてしまった。
周りは未だユノをチラチラと見ては噂話に花を咲かせている。
さてどうするか、とどうにもならないことに思考を巡らせようとした時、「よっ」と肩にいきなり手が置かれた。
ここには知り合いはいないし、今の状況でユノに話しかける猛者もそういないだろう。
そう思い油断していたユノは、ビクリと大袈裟に肩を跳ねさせ後ろを振り返る。
「また会ったな」
「……ルキ?」
「ああ、ユノ」
互いに確かめるように名前を呼ぶ。
試験申し込みの時に会った、金髪よりの茶髪の髪、軽薄そうな雰囲気ながらも高貴さの漂う出で立ち。
「見て、ルキ様と同じ試験会場みたいよ!」
周りの女生徒はルキの姿に色気立ち、彼にユノの噂を吹き飛ばされたようだ。
「人気なんだな」
「みたいだな」
「自分の事だろ? やけに他人行儀だな」
「まあ、これが俺にとっての日常風景だからな……今更何とも思わない」
それはモテる人の台詞だ。
と少々妬ましく思いながらも、ユノのせいで暗かったこの会場を明るくしてくれた事に感謝する。
だが、また別の問題が挙がってしまったらしい。
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