3 騒動

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「勘違いだったら無視して良いんですが……俺と会った事、ありますよね? それも最近」 「さすがです、気付いておいででしたか」  知らなかったらはてなマークを浮かべるだろう所を、彼は納得し微笑を浮かべた。 「姿は変わっていても、声は同じなので」 「あの時の姿が本当の私の姿です。これは偽り、人に紛れるための偽装ですので」  物腰柔らかな優男から一転、敬語は変わらないもののより低い声音となった彼は、ユノが思っていた通りあの時の、右だけに角の生えた魔王を慕っている魔人だった。 「何でここに?」 「貴方様がここにいるからです」 「……答えになっていないのですが」 「元々、ま……ユノ様の事を、我々は幼少の頃より知っておりました。滲み出る魔の気配に、我々は浮足立っておりました。けれども貴方様は人に紛れ楽しそうに、あの頃は見られなかった笑顔を浮かべておられた。なので時が来るまでは、我々は近づかないようにしよう、そう取り決めていたのです」  リージャは、ゆったりと止まっていた足を踏み出しながらユノの質問に答える。  それを追いかけながら、ユノはリージャの言葉に耳を傾けた。 「けれども、貴方様のその気配はどうしても狙われやすい。魔物は人にしては異様なそれに興味を持ち近づき、魔人は会った瞬間ひれ伏すでしょう。なので眠っている間、貴方様に封印を施させていただいたのです。魔の気配を封じ、魔王として心身共に成長するまで、その力が解放されぬよう。そして貴方様が無闇に傷つかぬよう、成長を見守るため見張りを付けていたのです」 「見張り……」  気配には自信があったはずだが、全くと言って良いほど気が付かなかった。  幼少という事は物心つく前、ならばそれが当たり前となり気付かなかったのだろう、と言い訳をし「しかし」の言葉に顔を上げる。 「最近、長年貴方様を見守っていた者が倒れまして……急遽、私が代わりをさせていただくこととなったのです」 「見守るなんて……俺はもう子供ではないので、必要ないです。それに魔王でもありませんし」 「まだ言っておられるのですか? 年々気配が濃くなってきたため、二度目の封印を施されたばかりではありませんか」 「封、印? 何の事です?」 「来たでしょう? 魔物が。……いえ、魔物っぽいのが。貴方様が適性を受けより強くなったオーラを、引っ込めた者が」 「ああ……」  あの猫か、と合点がいき、ならばあの猫も魔界より遣わされてきた者だという事に複雑な気持ちになった。
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