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(……魔王って、何だよ……)
そう。
そこにはただ一言、『魔王』と書かれていた。
予測していたのは『魔法士』や『魔剣士』など魔法に関する職業だったのだが、予想外の言葉に頭が中々受け入れられない。
「ユノ……? もしかして、魔法関連以外でも出たの? でもそうだったとしても、ユノならどんな職業でもやっていけるでしょ。何をそんなに青ざめてるの?」
心配そうにユノの顔を覗き込むザグラの声でさえ、ユノには届いていなかった。
完全に固まり暫く戻りそうにないと悟ったザグラは、今度は同じく固まっているリーレンに目を向ける。
そして彼女の背後から現れた人物に気が付くと、嬉しそうに手を挙げた。
「シファン先生!」
「よっ、ザグラ。皆の様子を見に来たんだが……その二人は同じように固まってるが、どうしたんだ?」
「それが……僕にもよく分からなくて」
頭を掻きながら、再びザグラはユノとリーレンに目を向けた。
シファンという男は、この村にある唯一の学校の教師である。そこは十の頃から通い始め、文字などの基礎的な事を習う場所なのだ。
三人の担任であるシファンは、滅多な事では動揺しないユノとリーレンの様子を顎に手を当てながら見ていた。
何か悪い結果が出たのだとしても、受け入れられるようにサポートするというのも教師の勤めである。けれどそれにも、話が出来ない状況ではどうしようもない。
何かを尋ねても届きそうにない二人を見て、さてどうしたものかと考えた所で、リーレンがピクリと手を動かした。そして先生の顔を見ると、くしゃりと顔を歪ませる。
「先、生……っ!」
「おう、どうした。予想外のものが来て動揺しているのか?」
「私……私、『無色』って、何ですか!?」
「……なに?」
悲痛なリーレンの叫びに、ユノもハッとなりリーレンの方を向いた。
彼女は目尻に涙を浮かべ、シファンに詰め寄る。
「こっちに来い、リーレン」
彼女の叫びに辺りがシンとなり、良くない空気にシファンがその場から離れ隅の方に移動した。二人に付いて行ったユノとザグラは、彼らをただ見守り息を潜める。
「職業適性の欄に……『無色』と、そう書かれていたのか?」
「……はい」
「そうか」
「あの、『無色』って何なんですか? 聞いたこと、ないんですけど……」
大きな石に腰を下ろしたシファンは、腕を組みながらも眉根を寄せているリーレンが落ち着くように、穏やかな声を出すよう努め彼女を見上げた。
「『無色』というのは、だな……職業不定の事を言うんだ」
「……へ?」
「この適性検査が、何を基に行われているのかは知っているだろ?」
「はい……魔法の得意属性を基にして、行われています」
「そうだ。だが、魔法を使えない人というのも滅多にいないがいるにはいる。そういう人に出るのが、『無色』だと言われている」
リーレンを真っ直ぐと見つめ、シファンは言う。
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