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魔法というのは、通常誰でも使えるものだ。
それは少し水を出すというような生活を豊かにする程度のものであり、使えないことは即ち生活が不便になる事を意味している。
魔法に適性があるというのは、その一般的な魔法の素質より明らかに秀でて魔法を扱える者を指し、だからこそ三人は魔法関連が出ると固く信じられてきた。
だというのに魔法関連が出ないどころか、『無色』という意味不明なものが出て……リーレンの心労は、計り知れないだろう。
「魔法が使えないという事は、役立てる職がないという事だ。だから通常は、そういう生徒にはこういう結果が出るかもしれないと教えられ、自分のやりたい事を自分で決めてもらうんだが……リーレンの得意属性は、確か火、だったよな?」
「はい」
「そうなんだよな……魔法が使えないどころか並の人より遥かに使えるのに、こんな結果が出るのは初めてなんだ。この場合、どうすれば良いのか……。とりあえず、俺の方でも色々と調べたいと思うから、明日、また遅れずに学校に来てくれ。いいな?」
「……はい」
「それから、ユノ」
「……っ!」
「お前は何があったんだ? そんなに動揺している姿なんて、見たことないぞ」
リーレンからいきなり矛先が自分に向き、ユノの肩は跳ねた。三人の目が一斉にこちらを向いていて、思わず足が退く。
「あ……いや……」
何て言おうか戸惑い、口ごもる。だがいくら考えても、その答えは出て来なかった。
魔王というのは、数百年前に勇者と共倒れになったはずである。
魔の領域を支配する魔王は、死んでもまた数百年の時を経て復活する。
その数百年の平和の為に、魔王と同じ時期に現れるとされる勇者は魔王を討伐するのだ。
時期的に言えば、魔王が復活してもおかしくはない。けれど魔王がこの人の領域で復活するなど、ユノは聞いたこともなかった。
それに、ユノには魔人の身体的特徴が一切ないのだ。やはりこの結果は、間違いとしか言いようがなかった。
「いや、何でもないですよ、ちょっと予想外だっただけで。これからこの結果を基にちゃんと将来について考えるから、俺はこれで失礼します!」
「え……ちょっと、ユノ!?」
「リーレン! いつもの場所で夕方、待ってるから!」
そう言い残したユノは、三人に手を振り走り出した。
ユノのいきなりの行動に呆気になる三人は、ただその様子を見守っていた。
「ここまで、来れば……っ、大丈夫、だろ……」
教会から少し離れたここまで全速力で走ってきたユノは、息を切らせながら側にあった木に背中を付けた。そのまましゃがみこむと息を吐き、空を見上げる。
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