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黒魔法を扱えるのは魔物か魔人のみ。それを人が扱うなどあり得ない。
そう言われているそれを、ユノは小さい頃から自在に操る事が出来た。
それを出している所を母に一度見られ、『誰にも見せちゃダメだから、いいね?』と何度も念を押されそれ以来誰にも、母にすら見られていないユノの秘密。
当然ながら、自分から許可しない限り見られることのないステータスの属性の欄にも黒魔法はきちんとあって、得意属性には皆に知られている『水』ではなく『黒魔法』と書かれていた。
ユノは気配を読むのも得意だ。その持ち前の察知能力と探知魔法で黒魔法を使う際には気を付けていたのに、この魔物は気配を感じられず、まんまと見られてしまった。
誤魔化しの言葉を探すが思い浮かばず、キョロキョロと視線を彷徨わせていたユノに、魔物は「はぁ」とため息を吐いた。
「別に、ボクは君がそれを使える事を周囲に言いふらしたりしないし、むしろ黒魔法を使えるって知って嬉しいくらいなんだよ? 魔王が黒魔法を使えないなんて、とんだ笑い話だしね」
「そ、それっ……何で、知って……」
「当然でしょ。魔の領域の者が、魔王の気配に当てられて自分の主を認識しないはずがない。今までは普通の人として過ごしてこれたかもしれないけど、これからは違うよ。適性を与えられ方向を示された君は、ボクらの目には次期魔王候補として映っている。魔物、魔人、全てが君に跪く」
「そんな……」
人の脅威として恐れられている魔物と遭遇し、普通の人に取る態度ではなく上の存在と認識させられる事を想像し、ユノの顔は一気に青ざめた。
そんな人、いない。そんな事になったら不審に思われて、最悪人の輪から外れ、後ろ指をさされることになる。
「そうなったら、嫌でしょ?」
「嫌だ」
「そのためにボクが来たんだよ」
ユノの返答を聞いた魔物はユノの膝に前足を乗せると、目を閉じた。出ていた〝何か〟が体の中に引っ込む感覚の後、魔物の目が再び開かれる。
「今、君の中にある魔王としてのオーラを引っ込ませたから、跪かれることはないよ。魔王だと思われることもない」
「そんな事……出来るのか?」
「今はボクの力でしたけど、何れは自分でもできるようになるよ。君ならコツを掴めばすぐだ」
「あ、ありがとう! 俺、このままじゃどうなるかと……魔物にも、良い奴はいるんだな!」
「だから、魔物じゃないって……まあ、いいけど。ボクはもう行くけど、気を付けてね。今言ったことは上位の魔人には当てはまらないから。彼らは、君の事にすぐに気が付くだろうしね。平和な世の中は君によって容易く崩れる事が出来るんだ、それを肝に銘じて。それじゃ」
「あっ、待てよ!」
呼び止めたものの、走り去った場所を見た時には魔物の姿はもうそこにはなかった。
呆然としつつも頭を掻き、「結局、俺の適性が魔王って事は、変わりないのかよ……」と呟く。
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