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自分が戦争の火種になっていると思うと、肝が冷えた。
村の笑顔を想像して、その笑顔を壊すと思うと怖くて、ならいっそバレないように人に会わなければ良いのではとも思ったが、そんな事をすれば自分自身が壊れてしまいそうで。
己の弱さに失望すると同時に、これからの事、それから『魔王』という結果を思うと頭が痛くなり出したので、その事は明日考えようと頭の隅に追いやった。
「疲れた、な……」
空を見上げながらそう零し、暫しその場で眠ろうとユノはそのまま目を閉じた。
その様子をひっそりと眺めていた先程の魔物は、ユノが寝息を立て始めると猫の姿から魔人の姿になった。
それは男の子と形容するほど幼くて、上位魔人の証である角を携えた彼は、ユノを見ながら「ふう」と息を零す。
「これでひとまず、安心かな。でも……」
彼はユノの姿を見ながら、静かに言葉を落とした。
「ユノ・クリュー。転生しても、君が『魔王』という運命から逃れる事はないんだよ。……それは彼女が、『勇者』という運命から逃れる事が出来ないように、ね」
そう言い置くと、彼は今度こそ本当にその場から姿を消した。
△▽
ずっと、その真紅の髪に触れたいと思っていた。
剣を振るごとに縛られた髪が後ろで跳ね、汗を流し顔を苦渋に染める姿でさえも美しい勇者。
何度目を奪われただろう。
思わず見とれるその姿に動きを止め、迫りくる剣を慌てて避けた。
気丈に振舞いながらも心の中では同じ空間にいれる喜びに震え、ある時は殺し自分のしたことにさめざめと泣き、攻撃を避け切れず死んだときには息を切らせながらも、疲れたのか勇者が顔を歪ませながら剣を抜く。
そうして血を吐きながら、勇者に凭れかかっているふりをしてつかの間、抱擁を楽しむのだ。
そんな最期には、魔王が何事かを呟き、それを聞き勇者が魔王の耳元で何かを囁く。
笑顔になった魔王は、そのまま彼女の腕の中で事切れる。
――それは、あるひと場面。
長い闘いの、ひとつの終焉だ。
「ユノ」
「……ん」
「起きて、ユノ」
深い眠りの中にいたユノは、揺すられ朧げに目を開けた。
ぼんやりとした視界の中、入って来た赤いものを手に取り、無意識にそれに口づける。
「相変わらずね、ユノ」
「……リーレン!?」
声を聞き、漸く正気を取り戻したらしい。自身が手に取っているのがリーレンの髪であることに気が付き、慌ててそれを手放した。
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