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オーバーホールは二人で
後生大事に抱えてきたスーパーの袋が、ぐしゃっと音を立てて玄関に落ちた。
美味しいオムライスになって、ケチャップで浮かれたハートを描かれる予定だった特売の卵たちは、穂高の思考と一緒にぐちゃぐちゃになった。
「穂高、これはその――」
玄関からすべてを見渡せるワンルームの部屋。
見知らぬ女性と絡み合っていた半裸の隼人が、焦ってベッドから転がり出てきた。
綺麗に毛先を巻いたロングヘアーの小柄な女性は、恥ずかしそうにシーツを胸元に手繰り寄せている。突然の訪問者に驚いたのか、それとも訪問者が若い男子大学生だったからか。
恥じらいながらも穂高に向ける瞳に僅かな媚びが滲んでいるから、後者かもしれない。
生憎、穂高には彼女の視線の意図を感じ取る余裕はなかった。なぜなら穂高の恋人は、現在パンツ一丁でラグマットに置かれたピンク色の鞄に躓きながらこちらに駆けてくる男だからだ。
情けない状態の恋人を見ていられずに下を向くと、自分が履いている赤いスニーカーが視界に入った。少し視線をずらすと、礼儀正しくこちらを向いている華奢なパンプス。きっと彼女のものだ。
そしてその横には、同じくこちらを向いて並んでいる黒い革靴。今年の四月から社会人になった隼人のビジネスシューズで、奮発したと言っていたそれはピカピカに磨かれている。
社会という名の戦場を共に駆け抜けているその二足は、ひどく釣り合っていた。自分のスニーカーだけが、異質。靴にまで自分がこの場に相応しくないと言われているような気がした。
――こういう時、何て言えばいいんだろう。その女、誰? もう別れよう? さよなら? 浮気者? 今までありがとう?
「ほ、穂高、この人はあれだよ、前に話した一個上の先輩でさ、ほら俺、昨日出張だったろ? 彼女に同行してて、夕方に一緒に帰ってきて、ちょっとうちで休んでいくことになって――」
穂高の喉元に詰まった言葉たちは隼人のテンプレートのような言い訳に遮られ、結局声にならずに溜息となって排出された。
怒って責める勇気もなければ、きっぱり切り捨てる別れの言葉もうまく出てこない自分が惨めで仕方ない。言葉が、心が、愛が、死んでいく。
息を吐くのと同時にそっと玄関の扉を閉め、背中を丸めて隼人のマンションをあとにした。
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