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「さあ、できました!」
両手でクリアファイルを持ち上げたので、麦人はどれどれと背後から覗いて、眉間にしわを寄せた。
「これの、どこが恋文なんだよ」
「あら、どこをどう読んでも、愛がこもってますでしょう」
小首を仰向けて不思議がるカレンだが、麦人には彼氏の浮気現場を目撃したらしい彼女が綴った恨みつらみの怨念しか見受けられなかった。
「本気でわからないのですか。では、わたくし、恋愛探偵の推理を披露してさしあげますわ」
ほほほと、いかにもな高笑いを挟んだカレンは、立ち上がって向き直った。
「手紙にあるように、彼女は彼の不穏な場面を見てしまった。しかし、それが浮気に繋がるとは言いきれず、一人、せつない乙女心を抱えて、この手紙をしたためたのです」
カレンは見知らぬ彼女にどっぷり感情移入しているので麦人は声に出しては否定しないが、根拠となる手紙はせつなさよりも憎々しさという表現が相応しい文面だ。
「そうして、今日、複雑で苦しい想いを堪えきれず、わたくしに見つけてもらうため、彼女がここに捨てたのです」
「おいおい、急に推理がぶっ飛んだな。普通に考えたら、手紙を受け取った彼氏がムカついて捨てたって線が妥当だろ」
「いいえ、それはありえません」
ばばんと突き出してきた証拠は、別のクリアファイルに復元された封筒だった。
カレンは宛名のないそれを、くるりとひっくり返して見せてきた。
「うわ、うちのクラスの女子じゃん」
差出人の名前が麦人のクラス内では平和主義のおとなしめキャラだったので、ちょっと引いた。
「問題は、そこではありません」
言われて見直すと、封が剥がされていなかった。
「さすがに、彼女からの手紙を読まないで捨てるってことはないか」
「でしょう。つまり、これを破ったのは手紙を書いた当人。彼女は風の噂で私が公園で待ち合わせをしていると知り、こっそりと助けてもらいたいが為に、あんな捨て方をしたというわけです」
カレンは、ふふんと胸を張ったが、麦人は全面的に否定した。
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