モンスター

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モンスター

ウチには気弱なモンスターが同居している。 一家に一匹。番犬がわりのモンスターだ。 血統書付のモンスターをこれ見よがしに飼っている金持ちの奴もいるけど、ウチのモンスターは雑種。というか、捨てられていたのを姉が拾って来た。母親にさんざん怒られたけど粘ってようやく飼い始めたのに、五年もしないうちに姉には彼氏が出来てそのまま、同棲して結婚した。 後に残った俺がこのモンスターの世話をしている。 飲み物はトマトジュース。食べ物は鶏肉などの生肉。 本来は飲み物は「生き血」なんだけどモンスターを飼って良いこのご時世でも、毎回「生き血」を飲ますわけにはいけない。 でもモンスターに年に一度だけ「生き血」を与えることを許されている。 ハロウインの夜。街を歩く人はまばら。なぜならこの日だけはモンスターが街を闊歩しているから。年に一回の「生き血」解禁の日なのだ。ただ彼らが飲む量はほんの数滴。 動物愛護団体ならぬモンスター愛護団体はわざわざ生き血を準備して販売している。最近はこれを与える飼い主が多いのだ。流石に人様を襲うのはよろしくない。 それでも面倒くさがりの飼い主は年に一回、モンスターを狩りに出させて警察のお世話になっていたりする。 「今年もダメか」 俺の飼っているモンスター『カイン』はどうしても生き血を飲みたがらない。 うちに来て一度も飲んだことがないのだ。生き血を飲まないモンスターは年々弱っていく。そのまま飲まなければ衰弱して死んでしまうのだ。彼らにとって年に一回の数滴の生き血は生きる糧。 「カイン、なんで飲まないんだよ」 「……飲みたくない」 モンスターは十才程度の知識があり喋ることができる。カインも喋ることはできるのだが他のモンスターみたいに活発に外に出ないので、知っている単語が極端に少ない。そして彼はだんだんと衰弱している。 カインの青い瞳はここ最近よく閉じることが多い。眠いのだと言うが、本当は体がしんどいのだろう。 「このままじゃ、死んじゃうだろ」 なぜ彼が飲まないのか、それは彼が優しいからだ。人の血を飲む、という行為をしてまで生きたくないといつの日か言っていた。 だけど俺はカインを死なせたくない。 「頼むよ、お前こんなに弱ってんじゃんか」 今年のハロウインは満月。モンスターが凶暴になりやすいから気をつけましょう、とニュースで流れていた。凶暴になってもいいから、生き血を飲んで欲しいのに。市販の生き血パックを持ったまま俺はため息をついた。 そしてふと思いついた。 「カイン、俺の血なら飲んでくれる?」 「はあ?そんなの飲めるわけない……」 返事が返ってくるのを待たずに、俺は近くにあったハサミで自分の腕をほんの少し、切った。ピッと一瞬痛みとともに、腕に赤い筋がプクリと浮かんだ。 「何してんだよ、アベル!」 ほら、とカインの目の前に腕を差し出した。 本能だろうか、カインの目が俺の血を凝視する。 そしてハアハアとカインの息が荒くなる。 「いいから、カイン。飲めよ、頼むから」 「アベル。なんで、そこまで……、するんだよッ……」 年に一回、生き血をすする時のモンスターは、性別関係なく欲情もするという。 きっとカインはいま、俺を欲しているはずだ。 「お前が好きだから、生きてて欲しいんだ」 そしてカインの手が俺の腕を掴み、長い爪が肌に食い込んだ。 「せっかく、我慢していたのに。……アベルが悪いんだからな」 【了】
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