裏切

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裏切

 二学期になると、柚樹は高校のアニメ同好会に入った。後輩の姫華が、アニメに詳しい柚樹を熱心に口説いたからだった。 〈先輩、こんどコスプレ大会するんですけど、参加してくれますよね〉  ラインに姫華のメッセージが流れた。 〈彩愛も一緒ならいいけど〉 〈欠員は男子だけなんですう〉  結局、柚樹は姫華の誘いを断り切れず、コスプレ大会に参加することにした。 「先輩かっこいい」  姫華がスマホで柚樹のコスプレ写真を撮る。 「こんどはあたしと腕を組みましょう」  甘えてくる姫華に、柚樹は心地よさを感じ馬鹿騒ぎに興じた。 (俺って、あんがいモテるんだ) 「あたし、先輩がスキなんです。でも先輩には彩愛さんがいるし」  大会の後の打ち上げで、柚樹は姫華に告白された。 「そろそろ帰ろっかな」  怪しい雲行きに、柚樹が会場をこっそり抜け出そうとすると、 「つきあってください」  姫華がいきなり柚樹の首に抱きつき唇を重ねた。  調子に乗った柚樹は密かに姫華と遊ぶようになり、彩愛を一人にすることが多くなった。 「いつもどこに行ってるの」  帰りが遅い柚樹を彩愛が問い詰める。 「独りの時間が欲しいんだ」 「姫華ちゃんと遊んでるでしょ」 「おまえ、おれの後をつけたな」  柚樹は、かっとなり、 「おまえなんか粘土にかえしてやる」  と酷いことを口走った。 「柚樹……」  彩愛の目に涙がにじんだ。 「うざい!」  柚樹は冷たく言い放ち、出かけて行った。  それからの柚樹は粘土にかえすと言えば、彩愛が黙ることに味をしめ、いじめた。    街路樹が赤く染まる季節になると、柚樹は彩愛が部屋にいようと、平気で姫華を連れ込むようになった。  そしてある夜……。 「姫華ちゃんと別れて!」  苦しんだ彩愛は、涙ながらにうったえた。 「うるさい、このバケモノ! おまえなんか粘土にかえしてやる!」  柚樹は冷たく言い放ち、 「お願い、それだけはやめて!」  追いすがる彩愛を足蹴にすると、ろくろを勢いよく右へ回した。  その瞬間、彩愛の体はピンクゴールドの光に包まれた。 「創ってくれて、あ、り、が、と……」  光が収まると、ろくろの上に粘土が残った。  あっけない別れだった。  街の大通りがクリスマスのイルミネーションで賑やかに飾り付けられる頃、柚樹はそっけなくなった姫華にラインした。 〈姫華、今日、帰りにゲーセン行こう〉 〈ごめん、約束があるの〉 〈じゃ、明日は?〉 〈明日も忙しいの〉 「あいつ、最近つきあい悪いな」  柚樹は呟き、ラインを閉じた。 「こいつ、しつこいのよ」  その頃、姫華はクラスメイトに柚樹のコスプレの写真をみせ、笑いものにしていた。 「うざい─」 「マジキモ、バケモノね」 「これシェアさせて」 「うけるぅ─」  柚樹は、ラインで晒し者にされていた。  それから数日後の放課後、 「姫華に変な写真を送りつけんなよ」  と柚樹は数人の下級生に因縁をつけられ、いきなり殴られた。  深く傷ついた柚樹は、引きこもり学校に行かなくなった。 「ろくろがあれば、また彩愛を作れるさ」  柚樹は薄笑いを浮かべ、水道の水で粘土を捏ねると、ろくろを左へ回した。 「柚樹、会いたかったわ」  ところが出来た少女は、彩愛と姿は似ても、まったく異なる人間だった。 「ちがう、こんなんじゃない」  柚樹は作った少女を容赦なく粘土にかえし、再び粘土を捏ねろくろを左に回した。 「彩愛よ。会えて嬉しいわ」  今度も違った。 「ちがう、ちがう、全部ちがう」  柚樹は何百回、何千回とろくろを回したが、絶対に、最初と同じ彩愛を作ることは出来なかった。   木枯らしが吹きすさぶころ、柚樹はろくろ回しを諦めた。  クリスマスに、銀杏商会から宅急便が届いた。藤沢彩愛のフィギュアが入っていた。 「『誤配送、誠に申し訳ありません』だって」  検索すると、銀杏商会のHPがヒットした。 「おかしいな。あの時は削除されてたのに」  柚樹は彩愛のフィギュアを握りしめると、胸に強く押しつけ涙で目を腫らした。  
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