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大晦日
大晦日の夜、柚樹はみかんのように小さくなった粘土を持って街に出た。
「人だらけだ」
柚樹がやってきたのは、初めて彩愛を作ったときに使った、御神水のある神社だった。
(神様、水をいただきます)
心で呟き、ボトルを水で満たす。
「あそこにしよう」
柚樹は境内の奥にひっそり立つ大きな御神木の所へ行った。
「彩愛」
御神木の裏に回った柚樹は、その場に屈み粘土を根元の窪みにそっと置いた。
「ぼくはきみを傷つけてばかりだったけど、ここなら神様がきみを守ってくれるよ。それにぼくはいつでも君に会いに来ることが出来るから」
柚樹が御神水を粘土に全部注ぐと、粘土が溶けて泥になった。
「彩愛、ごめんなさい」
涙が止めどなく溢れ、地面に吸いこまれると、柚樹は指先で泥を小さく左にかき回した。
「さようなら」
柚樹は御神木に背をむけ、立ち去ろうとした。
「柚樹」
誰かが呼んだ。
「……」
振り返ると、彩愛が淡いピンクの振り袖を着て立っていた。
「幽霊……」
驚いて、目を白黒させる柚樹に、
「ちがうよ」
彩愛がにっこり微笑む。
「ご、ごめんなさい」
柚樹は、彩愛の前で跪き、繰り返し頭を下げた。
彩愛はゆっくり屈み、柚樹の手を握った。
「柚樹の心のろくろが、あたしに命を与えてくれたの」
「本当にごめんんなさい」
顔を上げると、彩愛が優しく笑う。
「いいわ。赦してあげる」
「彩愛!」
柚樹は目を潤ませる。
「もうじき新年よ!」
彩愛はにっこり微笑み、柚樹の手をとって大勢の人で賑わう参道へ連れ出した。
二人が歩きはじめると、カウントダウンがはじまった。
3、2、1、近くの公園から花火が上がった。
バーン、バーン、ドーン、ドーン
「Happy New Year!」
ワッと歓声があがる。
彩愛が柚樹に飛びつく。
二人は抱き合って花火を見上げた。
おわり
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