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1話
私の名はユニカ・ラーレ、只今絶賛婚活中のうら若き18歳。グラチノス伯爵家の長女として、花嫁修行中の身。
今もレディのたしなみとして、人脈と会話術を育む交流を熱心にしているところ。
「大きいと痛いのよ」
「噂は聞いたことあるわ。大きければ良いという事ではないみたいですわよ」
「え、では、鼻が大きいとアソコも大きいという見分けは意味がないのですの?」
「ちなみに、騎士学校のデイトナ教官はそれが当てはまるらしいの」
「まあ」
「まあ」
小鳥が囀り、色とりどりのチューリップの花が咲き乱れた庭園で白いテーブルに香り豊かな紅茶とスイーツを囲みながら、3人の年頃の令嬢が「おほほ」「うふふ」と朗らかに笑ってると、大抵こういうことだと思ってほしい。
「あー楽しかった」
幼なじみの令嬢2人をお見送りしてからリビングに戻り、目一杯伸びをしてからそのままソファに寝転がると、慌ててメイド長が駆け寄ってきて、捲れ上がったスモーキーピンクのドレスの裾を直してくれた。
「ユニカ様、何かお飲み物ご用意いたしましょうか?」
「ありがとう、大丈夫よ」
そう言ってお腹を擦ってみせると、年配のメイド長は小言を言いたくて仕方がない顔つきで、それでも耐えて部屋を後にした。出来た人だ。
白壁に白木の格子窓は青々とした庭へアーチ状にせり出し、淡いイエローのレースカーテンには細やかな模様が日光を受け浮かび上がり、飴色の木製フレームに純白の絹のクッションをこしらえたソファは肌触りも弾力も程よく、真っ昼間の惰眠を貪るには絶好の場所。
「はー、甘いスイーツでお腹一杯だし、このまま寝ちゃおう」
そうしよう、と瞼を閉じたところで、ガチャリとリビングの扉が開き、続いて軽やかかつ小気味良い靴音を鳴らしながらやって来た人物がソファを覗き込んできた。
「ユニカぁ」
だいたい私の名前を呼ぶ時は、泣き言か頼み事のこの男、二卵性双生児の弟タルダである。
コバルトグリーンのパッチリ瞳に、アッシュブラウンの髪の毛。筋肉が付きにくい体質なのか、背格好も似ているので、ストレートショートのタルダと癖毛のボブの私、という違いしかないほどのソックリさんが泣きついてくる。なもんで、錯覚のせいか毎回こっちの気分まで落ちるのだ。
「昼寝の邪魔しないでよ。てかタルダ、あんた学校抜け出しすぎ」
弟のタルダは騎士学校に通っていて、その寮に住んでいるのに、しょっちゅう家に帰ってくるのだ。
「そーゆうユニカだって、しょっちゅう昼寝しすぎ」
「私はほら、気疲れするから。花嫁修行も大変なのよ」
「どーせいつものメンバーで恥ずかしい話ばっかりしてたんでしょ?」
「失礼なっ」
正解だけども。
「ユニカ、お願いがあるんだけど」
「いやだ」
「まだ何も言ってないのにぃ」
「あんたのお願いで私が得したことがない、ひとつも」
「学校内で起きてる禁断の恋情報に新着あるけど」
「え」
「あと、ユニカ達がお気に入りのカイザー先輩の重要情報仕入れたけど」
「なに?!」
私達年頃の令嬢達における友情は、甘くて美味しい紅茶と濃くて禁断のお話を分け合うことによって強く結束していくのだ。
とりわけ、タルダの言うカイザー先輩とは、乙女達がこぞってときめいたり妄想に加えたりと、とてつもない破壊力を持つ人物である。
一度、この肉眼で確認したことがあったが、若干一目惚れした。いや、若干どころか涎を垂らさずにはいられないビジュアルと雄々しい性格に、キュンキュン胸が滾ったものだ。
「ユニカ、口の端から涎垂れてるけど、起きてるんだよね?」
「しょうがない。弟の頼みだ、なんでも聞いてあげよう」
ムクリとソファから起き上がると、何故かタルダはげんなりしていた。
「ほんとにコレでいいのかなあ……」
「なにが?」
「ん? あ、いや、こっちの話」
慌てたようにソファをぐるりと回ってきて、真横に座ったタルダは真顔で見つめてきた。
「今度は何?」
若干鬼気迫るオーラを纏ったタルダに仰け反りながら聞くと、その弟の方はさらに前のめりになって言った。
「また入れ替わって欲しいんだけど」
「またあっ?!」
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