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山中で若者たちが相次いで行方不明になる失踪事件を調べるべく、窓際刑事の諸見里永航は聞き込みをしていた。
O県中部、H町。基地関係者が道ゆく華やかな街。国内だという事を忘れ、一見外国へ観光に来たかの様な錯覚すら覚えるトレンドな雰囲気。名のあるブランドショップに若者たちが群がっていた。
ファストフード店の店外ラウンジに腰掛ける十代の娘2人に、諸見里は話し掛けた。
「君たち、ちょっといいかな?」
「えー? 何?」
「こうゆうものなんだけどね」と、諸見里は背広の内側から警察手帳をチラリと見せた。
「あー、お巡りさん? なんかドラマみたいだね。すごーい」
若い娘2人は互いの顔を見合わせてほくそ笑んだ。
「少しお話聞かせてもらってもいいかな?」
「私たち何も悪い事してないですよ?」
「うん。ただ、最近の話でね」
諸見里はO県北部で起きている失踪事件について聞き込みを始めた。
娘の1人が言った。
「知ってる! 怖い噂話だけど」
「何を知ってるの?」
「なんか、アプリで知らない女の人に話し掛けられて、山の中に誘われるんだって」
「聞いたことあるー。ヤバいよね」
「山の中に誘われる?」
「そうなんです。とっても綺麗な女の人がマッチングアプリで遊ぼー、て誘って。ついて行った人は帰って来られなくなる、て最近流行ってる都市伝説です」
「マッチングアプリ?」聞き慣れない言葉に諸見里は眉を潜めた。
「えー、なんて説明したらいいの?」
「何だろう、男女が出会いを求める時に使うアプリです」
「出会い系サイトか」
「まあそれのアプリ版、みたいな?」
「そのアプリも流行ってるのか?」
「流行ってるていうかー、沢山ある、みたいな?」
「どのアプリでその変な噂が出てる?」
「そこが怖いんですよ、ね?」
「そう。その女の人のアカウントはどのアプリにも存在していて、その女の人の名前を検索すると出てくる。そしてメッセージを送ると必ず返事が返って来る、て。だからその名前を探してはいけない。つまり、どのアプリって事じゃないらしいんです」
「怖ーい。ヤダもうこの話」
娘の1人が同調して言った。その類を信じない諸見里は淡々と聞き返した。
「わざわざ山の中に誘うのか? 怪しいと思わないの?」
「私らに言われてもね」
「ヤリモクとかー、そんな人はやっぱ騙されるんじゃないですか?」
「ヤリモク?」
「体が目当てのひと」
「そうゆうことか」言葉の意味を察した諸見里だったがアプリが犯罪の温床になっている事に嘆いた。
「でもさー、私が聞いた話では、山の中にパワースポットがあるらしいよ? そこに誘われたって友達の彼氏の先輩が話してたよ」
「パワースポット?」
「はい。観光スポットがあるらしいんですよ。洞窟みたいな、崖が合わさったような、神様と交流する場所? 方言で何て言うの? あるじゃん。なんとか岬の近くにも」
「えー? 方言分かんないよ。原始人だけど」
「現地人ね。原始人とかバカ丸出し。ウケるんですけど」
「御嶽の事か?」
「多分それの事だと思います」
「パワースポットか。観光客を釣るにはいい餌になるな。それで、君の言う友達の彼氏の先輩は、誘いに乗ったのか?」
「結局やり取りしてるのが付き合ってる彼女にバレちゃったみたいで、そこで終わったって話してました」
「その先輩と連絡は取れるか? 会って話がしたい」
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