1人が本棚に入れています
本棚に追加
「……佐野山さん?」
突然呼び掛けられた佐野山は驚いて声を漏らした。
吉野と共に声の方へ振り向くと、長い黒髪を後ろに結んだ背の高い女が立っていた。足元が隠れる程丈のある白いワンピースを着た端整な顔立ちの女は、2人を笑顔で見つめていた。
佐野山は聞き返した。
「〇〇さん?」
女は頷いた。
「……はい。そうです。道に迷われたと思ったんですが、大丈夫でしたね。初めまして。〇〇です」
吉野は何も言わずに女を見つめていた。
視線に気付いていたのか、女は言った。
「お友達もご一緒なんですね、丁度良かった。私のお友達も、この先にある観光名所で待っているんですよ……」
女は森の奥を指さした。
「……案内しますね」と、女は佐野山と吉野を手招きして歩き出した。
「皆と合流したら、山を降りて、あちこち遊びに行きましょうよ……」
女は振り向かずにワンピースの裾を地面に擦らせながら歩き続け、佐野山と吉野に話し掛けた。
2人は顔を見合わせて、女の後に着いて行く事にした。
「どんな場所なんですか? 観光名所って」
「……御嶽をご存知ですか?」
「ウタキ?」
「はい。……神様を祀る神聖な聖域の事です。昔は、男子禁制だったんですが、最近はある程度まで入る事が許されている場所もあるんですよ」
「へー」佐野山は女の後ろ姿を見て、安心していた。
アプリに送られていた写真の女の姿と同じ容姿だった。
吉野は何も言わず女の、裾の擦れる足元を見ていた。
と、同時に周囲にも目を配らせていた。
林の中から見知らぬ男たちが、スーッとこちらを覗き見ていたからだ。
死相漂う男たちが、佐野山や吉野をじっと見つめていた。
佐野山は先導する女にばかり気を取られ、周囲の異変に気付いていなかった。
吉野は林の男たちに目を合わせないように、女の足元だけを見ていた。
ふと、女の足取りが止まった。
最初のコメントを投稿しよう!