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白ずくめの女は叫ぶと同時に身の丈を大きく縦に伸ばした。顔は既に鬼のような形相に
変貌しており、端正な顔は剥がれ落ちていた。
その恐ろしい姿に吉野は思わず腰を抜かした。地面についた腕に、何かがまとわり付いてきた。
「うわあっ!!」悲鳴に近い叫び声を上げる吉野の周りには死相漂う黒い男達が群がっていた。
佐野山は立ち尽くしたまま気絶しており、身動きが取れない。
黒ずくめの女が様子を確認すると「チッ!」と短く舌打ちをし、化け物の前を走り過ぎて黒い男らに向かって刃を振るった。
男らは斬られると粒子化し、塵となって消えた。
「逃げなさい!」黒ずくめの女が言う。
「と、友達が!!」
吉野が佐野山に指をさす。
化け物が大きく口を開いて佐野山へ襲い掛かった。
黒ずくめの女は化け物目掛けて高く飛び上がった。
空中で身をかがめ、刃を構えて何かを口ずさんだ。
「シータカ、シータカ」
その言葉が化け物の動きを止めた。
「シーヒク、シーヒク!」
黒ずくめの女は空中で屈めた体を伸ばすと化け物へ構えた刃を振り下ろした。
動きを止めた化け物は刃を受けて蒸発した。
吉野は目の前の光景に言葉を失っていた。
黒ずくめの女は立ち上がると佐野山の溝内を獅子の彫物がある刃の頭の部分で小突いた。
「うっ!?」とうめき声をあげた佐野山はその場で倒れた。意識はなく、完全に気を失っていた。
女は刃を三線に刺し戻すと、傍観している吉野へ言った。
「さっさとこの山から出なさい。次は保証できないよ」
「え?」聞き返す吉野。状況を全く理解できていなかった。
「あんた達は騙されていたのさ。ユーリーにね」
「……ユーリー??」
「妖怪。命を取られるところだったんだよ。この山では行方不明になった人々が集まってる。みんな、ユーリーに魂を吸われたんだ」
「え?? 魂??」
「友達は助かるかもしれない。早くここから離れて」
言われるがまま、吉野は佐野山を担いで車へ戻った。
運転席の窓を開けて、吉野は女へ言った。
「あんたはどうするんだ?」
「私はまだやる事がある」女は三線をまた肩に下げ、化け物が案内しようとした御獄へ歩き出した。
「あ、ありがとう。助かったよ、本当に」
「助けたつもりはないよ。狩ってるだけ」
「あんた、誰なんだ?」
吉野が遠去かる女に尋ねると、女は足を止めて振り向かずに答えた。
「私を知ろうとすると………死ぬよ?」
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