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「いいじゃない! 前にも少しだけ画像で送ってもらったけどさ、実物はもっときれい。これはどうやって作ってるの?」
え、と思わず呟いた。
見返した及川さんは、先程と変わらない満面の笑みを携えていた。
そんな及川さんから発せられた、肯定的な言葉。その思いがけない反応に面食らってしまい、頭が真っ白になって言葉が出てこない。
だけれど及川さんはじっと私の返事を待っているので、慌ててその問いに答えた。
「えっと……そんなに、難しいことはしてないんですけど……。……フープの素材に、いつも石とか、ビーズとかを組み合わせて作ってます。あと、これみたいに……ボタンに糸を縫い付けるデザインも好きで」
おそるおそる説明すると、及川さんは興味深そうに話を聞いてくれた。そんな顔をされると途中で止めることもできず、私は促されるままイヤリングの説明を続けていく。
これで、いいのだろうか。
落胆されると思った。及川さんはきっと、これまでにもっとすごい作家さんの作品を見てきたはずだ。そういう人たちと比べると、私のイヤリングなんて子供騙しの、大したことないものなのに。
私は展示依頼者だけど、せっかく来てくれたお客さんでもあるから、気を利かせて持ち上げてくれているのだろうか?
話しながら、及川さんの表情を伺う。及川さんは私の下手な説明を、うん、うんと頷きながら聞いてくれる。その様子を見ていると、そこに裏はないように感じた。
私は振り絞るようにして声を出した。
「……あの。こんなのでも……展示していいのでしょうか」
すると、及川さんは笑って首を振った。
「こんなの、なんて言わないで。大歓迎だよ。最近は平面の作品が多かったから、お客さんも楽しめるんじゃないかな」
そう言いながら、書類とペンを差し出してくる。
書類には、展示に伴う約束事の記載と、個人情報の記入欄があった。
「メールでも説明したけれど、改めて話すね。展示期間は二週間です。展示料はいりません。ただ、友達とか知り合いを連れてきてくれるとお店としてはうれしいかな。在廊中は、料理の注文をお願いします。展示方法は……」
真剣な表情で話す及川さんの声を聞いていると、心の奥の氷が溶けていくように、不安だった気持ちが少しずつ和らいくのを感じた。
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