第一話

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  「……くだらね」  ——クダラナイ。  一瞬、その言葉の意味がわからなかった。つい、彼の目を見つめる。  クダラナイ。  くだらない。  そう理解して、心がまた、凍りついた。  時が止まった気がした。頭が、彼の拒絶の意思を認識する。同時にじわりと、涙が浮かんだ。  ほら、やっぱり……。 「葵!」  及川さんが席を立つと同時に、男の子はぷいと後ろを向き、一階へ降りていってしまった。  そして油絵の道具を持ち、奥の部屋へと引っ込んでいってしまう。私は呆然としたまま彼を見送っていた。  くだらない……くだらない。  頭の中で、彼の言葉がリフレインする。  何度繰り返しても、その言葉は刃のように心に刺さって傷を作った。 「あの……ごめん。あいつ、機嫌悪かったみたいで」  及川さんが気まずそうにこちらを向く。こんなはずじゃなかった、というように、焦った表情をしている。  でも私に、困っている及川さんを気づかう余裕はなかった。 「いえ、だって……本当のことだと、思いますから」  そう言うと、右手が勝手に横に置いていたショルダーバッグを掴んでいた。  次の瞬間、私はほとんど無意識で階段を駆け下りていた。 「佐々木さん!」  後ろで及川さんが呼び止める。でも涙が溢れそうで、振り返ることができない。  私はぐちゃぐちゃの思考のまま、店を飛び出した。  
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