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「……くだらね」
——クダラナイ。
一瞬、その言葉の意味がわからなかった。つい、彼の目を見つめる。
クダラナイ。
くだらない。
そう理解して、心がまた、凍りついた。
時が止まった気がした。頭が、彼の拒絶の意思を認識する。同時にじわりと、涙が浮かんだ。
ほら、やっぱり……。
「葵!」
及川さんが席を立つと同時に、男の子はぷいと後ろを向き、一階へ降りていってしまった。
そして油絵の道具を持ち、奥の部屋へと引っ込んでいってしまう。私は呆然としたまま彼を見送っていた。
くだらない……くだらない。
頭の中で、彼の言葉がリフレインする。
何度繰り返しても、その言葉は刃のように心に刺さって傷を作った。
「あの……ごめん。あいつ、機嫌悪かったみたいで」
及川さんが気まずそうにこちらを向く。こんなはずじゃなかった、というように、焦った表情をしている。
でも私に、困っている及川さんを気づかう余裕はなかった。
「いえ、だって……本当のことだと、思いますから」
そう言うと、右手が勝手に横に置いていたショルダーバッグを掴んでいた。
次の瞬間、私はほとんど無意識で階段を駆け下りていた。
「佐々木さん!」
後ろで及川さんが呼び止める。でも涙が溢れそうで、振り返ることができない。
私はぐちゃぐちゃの思考のまま、店を飛び出した。
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