第一話

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   話を聞くと、甥っ子さんは二十歳なのだという。  私よりひとつ年下なのにこんな絵を描けるなんて。その才能に驚いてしまった。興奮して絵の感想を話すと、及川さんは、伝えておくね、と言って笑った。  そのあと、私たちは二階の展示エリアへと向かった。  そこは席が二つとあとは壁だけの、小さな空間だった。少し明るさを落とした室内に、スポットライトに照らされた作品たちが十点程並んでいる。  今展示しているのは墨で描かれた水墨画らしく、鋭い筆運びで虎や狼といった雄々しい動物たちが表現されていた。 「かっこいい……」  思わず呟く。そして、その圧倒的な画力に見入ってしまった。  規模は小さいけれど、それは立派な『個展』だった。  一階とは異なり、この空間には展示主催者の作品しか飾られていない。だから、二階に来た人が満足するかは今、作者一人の技量に委ねられている。だけれど飾られている水墨画はその責任を果たすとでも言うかのように、堂々とこちらにその姿を見せつける。その威厳すら感じる佇まいに、思わず感動してしまった。  なんの予備知識もなくここへ来ちゃったけど、こんなに本格的な作品が見られるなんて思わなかったな……。  そんなことを考えていると、ふと、及川さんが隣でくすくすと笑っていることに気づいた。 「あ……ごめんなさい。私、ぼーっとして」 「いいよ。いくらでも見てね」  いつのまにか自分の世界に入り込んでいたようだ。恥ずかしくなって火照った頬を手で覆うと、及川さんは私の気持ちを察したように、にっこりと微笑んでくれた。  だけれど、その次に及川さんが呟いた一言が、私を一気に現実の世界へと引き戻した。 「来月にはここに佐々木さんの作品が並ぶと思うと、わくわくするよね」  
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