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夜中に目が覚めたら異臭がした。愛美は黒い木のベッドから降りた。愛美は六畳の自分の部屋で一人で寝ている。向かい側のパソコン台の隣にある棚からハンカチを出して鼻と口に当てる。今晩はトイレに起きたのだが鼻が曲がりそうな生臭い匂いがする。壁に掛かっている時計を見ると夜中の二時だ。生臭い匂いは魚が腐ったようだ。だが家は魚屋でもないし、夕飯は肉だった。生臭い匂いの正体が分からない。愛美は隣の部屋で寝ているお母さんとお父さんを起こそうと思った。綿でできたピンクのパジャマの上に厚地のカーディガンを着て部屋を出る。匂いが一層キツくなった。
愛美の部屋はフローリングの洋室だがお母さんとお父さんが寝ている部屋は和室だ。二階には三部屋あってもう一つはお父さんが小説を書く部屋になっている。そう、お父さんは駅員が本業なのだが同時に小説家なのだ。愛美が二十二歳だから親は五十近い。
愛美は向かって右隣りの襖を叩いた。お母さんの返事がしたあと「何?この匂い」と聞こえてきた。
「やっぱり分かる?」
愛美は襖の向こうに居るお母さんに言った。内側から襖が開く。お母さんはブルーのストライプのパジャマだ。鼻をつまんでいる。
「もう、何処から匂ってくるの?こんな夜中に」
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