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破空
「あ、いけない」
ゆるやかな微睡みから目さめて、二度、壁掛け時計を見上げた。ずいぶんと寝過ごしてしまって、まもなく夕暮れる時間だった。
卵と生クリームを切らしていた。卵は今日なくてもかまわないが、生クリームがないと……。慌ただしく顔を整えて紅を掃き、玄関とともに両目も大きく開いた。
驚いた。
あたり一面がキラキラと輝いていた。
呑気に長すぎる午睡を引きずっていた間に、道路から庭の下草から乗用車から、すべてが打ち水にでもあったみたいに濡れそぼっていた。
いつ降っていつ止んだのか、オレンジがかった夕映えがいっそう綺羅ぎらしく雨粒のその一滴一滴に宿って光る。
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