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旅行かばんを抱えた姉と……彼。
「沙奈……?」
「……花奈?」
「えっ!」
彼の目が大きく見開き、隣の姉と、目の前の私を見比べはじめる。
姉は持っていた旅行バッグを落として、唇を噛み締めていた。
私はさっと立ち上がり彼の目の前に進んで、勢いよく頭を下げた。
「ごめんなさい……バイト先で働いているのが私で、双子の妹なんです。姉が加藤さんのことが好きで、姉の恋を手伝おうと思ってずっと騙してました」
「……」
顔を上げると、呆然としている彼の顔が目に入る。
「違うの。私が妹にお願いして……。ほんとごめんなさい」
姉も両手を前にして頭を下げる。
「……ええと」
私と姉を指差して確認する彼。
「昼に会っている沙奈がこっちで、夜に会っていた……妹さんがこっち」
うんうん、とうなずく私と姉。
「はは、全然わかんない」
額に右手を当てて唸る彼が、私の方を向いた。
「妹さんは、ずっとつきあってたフリしてたんだ。俺のこと好きでもないのに?」
「……」
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