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中の熱気に気を許して、外に出ると、冷気が容赦なく私たちを包み込んだ。
「夏から冬にやってきて、風邪ひきそう」
南半球から戻って来た大ちゃんが、ぶるんと身体を震わせた。私の手は握られたまま、大ちゃんのダウンジャケットのポケットに突っ込まれていた。
「部長さんたち、仲良さそうだったな」
「本当に。部長も会社での顔とはまた違って新鮮だった」
「あんな風に俺たちもなれるかな?」
「どうかな?」
「そこはなれるって言ってくれよ」
大ちゃんはそう嘆くと、天を仰いだ。つられて空を見上げると、満天とは程遠いけれど、かろうじていくつかの星を確認することができた。
「……だけど、今、幸せだよ。私」
聞こえるか聞こえないかの声で呟くと、私は、大ちゃんの手をぎゅっと握りしめた。
「happier hour担当ですから」
大ちゃんが、ひひひと目をたわませた。
物理的に離れている限り、私たちの未来は、きっと一筋縄ではいかないことばかりなんだろう。だけど、何があってもこの手だけは離したくない。それだけは、答えがはっきりしている。
間も無く夜がやって来る。今夜の私たちに距離はなくなるはずだ。
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