1年後

1/1
98人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ

1年後

それから、季節は流れ、また冬が訪れた。 職員室前の掲示板に大学合格者の名前が掲示されているのを、毎日欠かさずチェックする。 金坂さんは…… 地元私立大学に合格。 でも、きっとこれは滑り止め。 金坂さんは、地元の国立大学に行きたいって言ってた。 2月が終わり、3月に入った。 国立大学の発表が始まった。 私は、毎日、目を皿のようにして掲示板を眺める。 今月、弟の高校受験もあるのに、私の関心は金坂さんにしかなかった。 ……あった! 金坂さんの名前。 地元国立大学の教育学部。 大丈夫。 金坂さんなら、絶対にいい先生になる。 嬉しくて涙がこぼれた。 その日、授業を終えて帰ろうとすると、校門の前に見覚えのある人影を見つけた。 「恵理奈ちゃん!」 「金坂さん……」 一緒に帰らなくなった後も、ずっと野球部の練習は眺めていた。 甲子園予選が終わって、金坂さんが部活を引退するまで。 報われないことは分かっていても、だからといって、嫌いになることはできない。 「恵理奈ちゃん、俺、決めたんだ」 えっ? 何を? 私は、よく分からなくて、首を傾げる。 「大学を卒業したら、恵理奈ちゃんを迎えに来る。ちゃんと先生になって、恵理奈ちゃんを支えられる男になる。だから、俺と付き合ってくれないか?」 それって…… 「でも……」 金坂さんにそんなに迷惑をかけるわけには…… 「恵理奈ちゃんには、迷惑をかけない。俺が恵理奈ちゃんに合わせる。だから、また一緒にいてもいいだろ?」 いいの? だって、私には…… 「ということで、送るよ」 金坂さんは、はなから私の話を聞くつもりがないように見える。 「あの……」 なんて言えばいいんだろう。 「俺が勝手に恵理奈ちゃんにつきまとうから、迷惑なら言って」 金坂さんは、一人で宣言をする。 迷惑……なわけない。 「何も言わないってことは、俺が送っても大丈夫ってことだろ?  さ、帰ろ」 そう言って、金坂さんは、自転車を漕ぎ始めるから、私は慌ててそのあとを追った。 1年ぶりに二人で並んで自転車を走らせる。 また、金坂さんと一緒にいられる日が来るとは思わなかった。 金坂さんが言うほど、簡単じゃないかもしれない。 私には、たくさんの問題がありすぎる。 それでも…… 今、ここにある幸せは、私も持ってていいの? 今夜は、眩しいほどに青白い月が輝いている。 星たちが霞んで見えないほどに。 いろんな事情を抱えた私は、昼の太陽にはなれないだろう。 それでも、金坂さんの優しさを受けて輝く、夕焼け雲や月のようになら、なれるかもしれない。 そうなれたら、いいな…… いつか…… ─── Fin. ─── レビュー・感想 ページコメント 楽しみにしてます。 お気軽に一言呟いてくださいね。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!