3:日陰荘の戦い

1/17
前へ
/33ページ
次へ

3:日陰荘の戦い

 男の名は、拓馬陽堂 直親(たくまようどう なおちか)という。  明らかに普通ではないその名前は、本名ではなく仕事用の名である。  職名としては霊媒師が近いが、彼は単に人と霊とを媒介するのではない。  霊を鎮める者、言うなれば鎮魂師ともいうべき者だった。  直親は話を聞き終わると、大家にこう告げる。 「とにかく現場を見てみましょう」 「い…行くのか、あそこに」  大家は不安げに声を震わせる。相手の身を案じているのではなく、危険な場所に行くならひとりで行けと暗に訴えていた。  直親もそれを感じ取っている。  が、返す言葉は穏やかだった。 「中に入るのは私ひとりです。大家さんは建物の外で待っていてください」 「だ、大丈夫か…?」 「大丈夫です。工事の時だけ事故が起きるということは、霊がいたとしてもこの建物から出たくない霊ということです。安心していいと思います」 「わ、わかった。それなら…行こう」  大家はようやく日陰荘への案内を承諾した。
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加