3:日陰荘の戦い

5/17
前へ
/33ページ
次へ
 手の甲に浮かび上がった2匹の蜘蛛は、合計8つの目を迷いなく13号室に向けている。 「どうにもならないか…!」  直親は悔しげに言いながら、13号室のドアノブに手をかけた。  その頃、大家は日陰荘の外でやきもきしていた。  建物の方へ時折顔を向けたりしているが、直親が聞いた猫の声に気づく様子はない。 「大丈夫か、あの男…」  大家は不満げに声を漏らす。 「見た目からして全然『それ』っぽくないが…やっぱりもう少しちゃんとしたヤツに頼むべきだったか…?」  そこへ、制服を着た警官が自転車に乗ってやってきた。 「こんにちは」  警官は大家のそばで止まると、自転車を降りる。  人の良さそうな笑顔を浮かべながら、こんなことを尋ねてきた。 「何かお困りのようですが、どうかしましたか?」 「え? ああ、いや…別に」 「ここの方ですか?」 「ええ、大家です。おまわりさんこそどうかしたんですか? 職務質問なら、もっとふさわしいヤツがそこらにいくらでもいますよ」 「ああ、お気を悪くされたらすいません」  警官は苦笑しつつ謝ってみせる。
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加