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驚いてぎょっとする大家をよそに、両手を小さく羽のように動かしながらさらに言う。
「カラスのバーカ、バカカラスー、ボケカラスの声うるさい! イェイ!」
この場にカラスなどいない。
外で鳴く声も聞こえない。
幸秀は、どこにもいないカラスに向かって自作の節をつけた文句を口にする。
「バカバカカラスー、バカカラスー、ボケカラス焼いて食っちまえー、イェイ!」
「おい、幸秀…」
大家は、どう言葉をかけたものかわからず困惑する。
この様子に男たちの代表は業を煮やし、幸秀に殴りかかろうとした。
「このクソガキ!」
「ま、待て。待ってくれ」
大家はあわてて振り返り、代表を止めた。
「気持ちはわかるが、こらえてくれんか。ちゃんと説得するから」
「あのなあ、わしらずっと我慢してきたんじゃぞ?」
代表は、怒りの矛先を大家に向けた。
「ボヤも大概じゃが…便器にクソをまき散らす、夜中にいきなり騒ぎ出す、イカ臭いパンツをそこらに放る…! こいつはまだ一度たりともわしらに謝っとらんのじゃ」
「それは…わしが代わりに謝る。すまん」
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