1:幸秀

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 2階の住人たちは怒りのままに彼を捕まえようとする。しかし日々の労働で疲れ切った職人と、体力の有り余った幸秀とでは勝負にならない。 「ぎゃーはははっ! ボケボケカラス―、顔真っ赤ー!」  彼はげらげら笑いながら日陰荘を飛び出し、大家のもとへ避難した。  幸秀に助けを求められれば、大家はかばうしかない。 「も、申し訳ない…こいつは頭が弱いんじゃ。どうか見逃してやって…」 「大家さん、ものには限度があると思うんですよ。あんたがそうやってかばうなら、俺たちも下にいた連中みたいに出ていくことになりますが…それでもいいんですか?」  2階に住む男たちの代表は、丁寧な口調の中に怒りを込めてそう言った。  しかし大家には何もできない。 「出ていくいかんはあんたらの勝手じゃ」  この言葉に男たちは呆れ、数週間後には2階に住む者もいなくなった。 「ぐふっ、ぐふふふっ」  自分以外誰もいなくなった日陰荘で、幸秀は嬉しそうに笑う。 「静かなお部屋ー、カラスはいないー、ボケが、ボケが、どっかいった! ふはっ」  幸秀は肉体労働者たちを見下していた。
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