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辺り一面、夕焼け色の広い空間。そこに、コツコツコツ、と革靴の足音が響いている。
コツン。と、足音が止まった。
「こんにちは。良い夕方ですね」
気が付くと、目の前には全身真っ黒なスーツに身を包んだ糸目の男が、恭しい態度で立っていた。
「昼と夜が入れ替わる良い時間ですね。この時間を、何というか知っていますか?
夕方。夕暮れ。夕刻。夕焼け。夕映え。夕さり。夕まし。
ほかには、薄暮。薄明。暮れ泥む。入相。日の入り。黄昏。そして、逢魔が時」
男はニヤリと笑う。
「逢魔が時。あなたはこの意味を、知っていますか? これは読んで字の如く、人と人ならざるモノたちが出逢う時のことをいいます。
人ならざるモノ。彼らは、人の心の闇を好みます。甘い言葉で、人間を誘惑するのです。
ひとつ、お聞かせいたしましょう。魔に魅入られてしまった、哀れな人間の末路を……」
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