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唯人は今まで以上に、勉強に励んだ。しかし、彼の思いとは裏腹に、成績は徐々に下がっていった。
(なんで! 僕は毎日、予習も復習も欠かさずにやっているのに! 僕は誰よりも勉強しているのに、なんで成績が落ちているんだ!!)
唯人は家に帰る気になれず、誰もいない公園のベンチで頭を抱えていた。
唯人の頭の中には、クラスメートたちのあざ笑う声や、担任教師の冷笑。母親のヒステリックな金切り声が、響いていた。
(うるさい。うるさい! うるさい!!」
「こんにちは、良い夕方ですね」
「え?」
突然、聞こえてきた声に、唯人は顔をあげた。
そこには、夕日を背に立つ人物がいた。
唯人からは強い逆光で、声から判別して、相手が男であること。服の形からして、スーツを着ていることしか、わからなかった。
「なにかお悩みのご様子。私でよければ、お話を聞きましょう」
「……変な勧誘は、お断りですよ」
「勧誘だなんて、とんでもない! ただの親切心。お節介とも言いますね」
影で男の顔は見えないはずなのに、にっこりと笑ったのを、唯人は感じ取った。
唯人が黙り込んでいると、男は肩をすくめる。
「まぁいいでしょう。悩める若人に、一つ助言を差し上げます」
「助言?」
唯人は訝しげな表情を浮かべる。
男はズイッと身を乗り出す。しかし、唯人と男の距離は近づいたはずなのに、男の顔は見えない。
「夕方を示す言葉、あなたはどんな言葉を知っていますか?」
「え? は、薄明とか、暮れ泥むとか。他には黄昏とか」
唯人の答えに、男はパチパチと拍手をする。
「難しい言葉を知っていますね。さぞかし、あなたは優秀で勤勉なのでしょうね」
男の言葉に、唯人は視線をそらした。
どんなに勉強をしていても、今の唯人は優秀ではなくなりつつあるからだ。
「しかし、残念ながら、私の求めていた答えではありません。不正解です」
唯人は怒りで、頭に血が上るのがわかった。彼は勢いよく立ち上がる。
「さっきから、なんなんですか! 僕はもう帰ります。帰って勉強しないと」
「お待ちなさい。人の話は、最後まで聞くものですよ」
男にトンッと軽く肩を押されただけなのに、唯人は全身の力が抜けて、ベンチに逆戻りした。
「な、なんで」
「あなたは、こんな言葉を聞いたことは、ありませんか?」
不思議がる唯人をよそに、男の話は進む。
男はピッと人差し指をたてる。
「逢魔が時」
「おう、まが、とき……」
唯人が繰り返すと、男は説明を始めた。
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