オナカさま。

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オナカさま。

 これは、私が小学生だった時の話。  恋愛のおまじないを探してきてほしい、と。友人の小鞠(こまり)に無茶振りされたのは、帰りの会が終わってすぐのことだった。  明るくて元気だが、少々強引なところもある小鞠。やると決めたことは何が何でもやり通す、という意思の強いところは彼女の長所でもあるのだが――それに他人を巻き込むところだけはなんとかしてほしいと常々私は思っていた。クラスでも仲の良い友達であるがゆえ、頼まれたらそうそう断れる立場でもないのだけれど。 「あのさあ、小鞠。恋だのなんだの言ってる場合?受験までもう時間ないんでしょ?」  私は呆れて彼女に言う。私は中学受験はしないが、彼女は違う。親の意向だとかで、イヤイヤ私立を受けなければいけないのだといつもぶーたれている。確かに彼女は私と違って成績も悪くはないし、やる気がなくても受かる可能性はゼロではないのかもしれないが――だからといって小学校六年生の今の時期、そんなことを言っている場合なのだろうか。  第一、彼女が好きな相手は私も知っている。同じクラスで一番の人気者の凌太(りょうた)だ。私としては、凌太の親友である雪海(ゆきみ)の方がずっとカッコよくて魅力的だと思うのだが――まあそれはそれ、人の好みにどうこう言うつもりはない。何が気になるって、その凌太も彼女と同じ中学を受験するということ。つまり、彼女もきちんと勉強して受験に通れば、何も急いでおまじないなどしなくとも学校がバラバラになることはないはずなのである。  凌太と雪海はどちらも学年トップクラスの成績だ。雪海の方は受験しないので関係ないが、まず凌太があの学校に合格しないなんてことはないだろうと誰もが思っていることだろう。要するに、あとは小鞠の努力次第ということである。恋のおまじないなんぞやっている暇があるなら、まだ受験合格のおまじないを探した方が建設的ではなかろうか。
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