6人が本棚に入れています
本棚に追加
●●には自分の名前、○○には自分のお願い事が入るという。怪談やおまじないに詳しい集団がいたので、彼女達に話を聞いた結果発掘されたのがこの話なのだった。とはいえ、オナカ様の井戸の存在そのものは知っている者も少なくなかったらしく、怪談の内容も複数パターン存在していたものであるらしい。興味がなかった私が知らなかっただけで、ちょっと詳しい子の間では有名なものであるらしかった。
それこそ、おまじない以外にも“逢魔が時に傍を通ると、中から腕が生えてくる”なんていう子もいたし、“そもそも魅入られて神隠しに遭ってしまうから近づかない方がいい”なんて話していた子もいた。多方、井戸がそのままになっていて事故が起きると危険だから、わざと大人が怖い話を流している面もありそうである。
そんな形で子供達を遠ざけるくらいなら、さっさと井戸そのものを潰すなり塞ぐなりしてしまえばいいのに、と個人的には思うのだけども。
「よっしゃ、やるか!石プリーズ!」
「そこで自分で拾ってこないあたりが小鞠だよね知ってた!」
まったくもう、と私は昨日のうちに近くの川原で拾っておいた石を三つ、彼女に手渡した。どうせなら私も、雪海とくっつけるようにお願いしようと思って、石は合計六つ用意していたのである。
人にどうこう言っておいて何だが。私とて一人の小学生女子だ。好きな男の子との関係を進展させたい、という気持ちそのものは非常によくわかるのである。
「言っておくけど、オナカ様はすっごく気まぐれなんだからね。お願いしても、気に入って貰えないと叶えてくれないんだからね?気休めだと思ってやるんだよ、いいね?」
「もーわかってるってばー」
「ほんとにわかってんの?もう……」
気持ち悪いくらいニヤついている小鞠を尻目に、私は井戸にぽいぽいぽい、と小石を三つ投げ込んだ。小鞠も同じくそれに従う。
そして私達はそれぞれ手を三回叩くと、呪文を唱え始めたのだった。
「オナカ様、オナカ様、あやかし様。
私の名前は工藤唯です。
私はこの町の人間です。
どうか私のお願いを叶えてください。
捧げものはここにあります。
どうか私のお願いを聞き届けてください。
祈るものはここにおります。
私のお願いは、同じクラスの星野雪海君と両思いになることです。
どうかよろしくお願いいたします」
最初のコメントを投稿しよう!