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「オナカ様、オナカ様、神様。
あたしの名前は田中小鞠です。
あたしはこの町の人間です。
どうかあたしのお願いを叶えてください。
捧げものはここにあります。
どうかあたしのお願いを聞き届けてください。
祈るものはここにおります。
あたしのお願いは、同じクラスの千葉凌太君と両思いになることです。
どうかよろしくお願いいたします」
あれ?と私は首を傾げた。小鞠が言った台詞が、本来のテンプレートと若干違って聞こえたからだ。
「小鞠、今“神様”って言った?正しくはあやかし様、のはずなんだけど」
「あれ?そうだっけ?あたし間違えた?」
「うん」
まあ、あやかしも神様も大して違いはないと思うが。念のため言い直した方がいいのではないか。それで願いが叶わなかったら非常にもったいない気がする。
しかし、小鞠は。
「まあ、いいんじゃない?あやかし様お願いします、より神様お願いします、のがカッコいいしそれっぽい!字面もいい!うん、こっちの方がいいよ!」
と、さらっと流してしまった。なんとも大雑把な性格の彼女らしい。
「もう、それで機嫌損ねても知らないからね?両思いどころか嫌われるかもだよ?」
呆れて告げる私。彼女はそれは困るなあ、と言いつつも再度台詞を言い直すということはしなかった。
まあ、確かに“オナカ様”とやらが本当にあやかしであったとしても。神様、と呼ばれて嫌な気がするということはないだろう。別にそれくらい言い間違えても多目に見てくれるような気がしないでもない。
結局そのまま、私達は手を振って別れ、それぞれの家に帰宅することになるのである。
何事も起きないはずだった。所詮は、小学校の七不思議として伝えられる程度の話。私も心から信じていたわけではないし、“本当にお願いが叶えば嬉しいな”程度であったから尚更である。実際、翌日学校に来ても雪海の自分に対する態度はほとんど変化がなく、それから三日が過ぎても進展がある気配はまったくなかったのだから。
事件が起きたのは、その一週間後のことである。
突如として、小鞠が帰らぬ人になったのだ。それも――石を拾った川原で、惨殺死体となって発見されることになるのである。
発見してしまったのは、川原でよく遊ぶクラスメートだった。凄まじい苦痛と恐怖に歪んだ彼女の顔に、生きていた頃の可愛らしい面影は微塵も残っていなかったそうだ。
警察によると、彼女は腹を切り裂かれ、腸をごっそりと奪われていたという――それも、生きながらにして。
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