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好きで嫌いで大嫌い。
あーあ、嫌だな。
神様はため息をついた。
「お願いです、神様!Bのことを私よりずーっと不幸にしてください!」
お賽銭箱に、ころん、と一枚百円玉。
「神様、お願い!Aのことを私よりずっとずっと苦しい目に遭わせてやって!」
お賽銭箱に、じゃらんと十円玉が十枚。
お互いの不幸を願う、Aの女性とBの女性。
相手が自分より不幸になることばかりを願っている。
自分の努力ではなく、それを神様にやらせようとしている。
二人の願いは矛盾する。二人の願いは同時に叶わない。だから神様は何も出来ない。
どうして、努力しないのだろう。
どうして他人の不幸ではなく、自分の幸せを願わないのだろう。
誰かと比べることなく、ただ“私を幸せにしてください”だったなら、どちらの願いも叶えることができたのに。
――あーあ、嫌だな。人間のこと、好きなのに。
最近は、こんなことばかり。誰かを貶めたって、それで自分の世界が変わるわけじゃない。
誰かと比べて一番になっても、それは永遠には続かない。比べ続ける限り、満足できることはない。
比べるならばせめて、幸せの方がずっといい。それなのにどうしてみんな、誰かを不幸にすることで、満たされたような気持ちになってしまうのだろう。
それがしかも叶わない時、すぐに人に責任をなすりつけるのだ。神様にだって心はあるのに。
――嫌いになりたくないのにな。もう嫌だな。
Aのお願いも、Bのお願いも叶えることはできなくて。
結局彼女達は、それぞれ違う時間に、もう一度神社にやってきた。
どうして私のお願いを叶えてくれないの、と怒りながら。
「お金が足らないのかしら!」
「今度は千円あげるから、何がなんでも私のお願いを叶えなさいよ!」
もう嫌だ、と嘆きながら。
神様のお賽銭箱は、叩きつけられた千円を風で吹き飛ばしていた。
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