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じっ、と、走り去る愛しい人の子を見つめる。先程まで首を吊り、命を絶とうとしていた人の子。神である自分に、さっさと死なせろと啖呵を切ってきた人の子。
『あはは、あはは、あはは。楽しいなぁ、楽しいなぁ。』
誰にも聞こえない笑い声。人の子が去って数秒後に来た用務員とやらも、反応した様子はない。
誰の目にも映らず、誰の耳にも届かず、誰の記憶にも残らない神という立場は、時にひどく楽しくて、大抵狂いたいほど暇だ。それを耐えられる神もいるが、自分はそうじゃなかった。暇で、暇で、暇で暇で暇で暇で暇で暇で暇で暇で……消えてしまいたくて。
けれど簡単に消えることが出来ない身を恨みながらさ迷っていたところで、見つけたのがあの人の子だ。
「神様、お願いします。どうか楽に死ねますように。」
奇妙な薬を大量に飲む寸前、人の子はそう願った。死ぬことの出来ない自分に向かって。なんという皮肉だろう。そう感じて死なせなかった人の子は、どうやらそれで自分と波長があってしまったらしい。
人の子は自分が見えるようになった。声を聞くようになった。覚えてくれるようになった。それがどれだけ、自分を助けたことだろう。救ったことだろう。癒したことだろう。
だから、死なせない。
絶対に殺さない。死なせない。適度に気持ちを操作して、死と生を意図的に与えていく。死を諦めないように、生に執着をもたないように、調整しつつ。
『あはは、あはは、あはは。ずっとずっと楽しもう、マコト。私の、私だけの玩具。私だけの理解者。』
傾国さんと呼ばれた美しい顏を愉快に歪め、人の子のもとへとむかう。
なぁ人の子。お前が神たる私に願いを捧げるというのなら、私からもお願いだ。
人の子よ、お願いだから死なないで。
私はこれからも、お前で楽しみたいんだよ。
「え、なんか寒気した。」
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