自殺志願者は今日も死にたいと神に願う

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 (神様、どうか今度こそ死ねますように。)  吹き抜ける風が気持ちいい午後のこと。誰も来ない旧校舎の一室にて、俺、三橋マコトは合掌していた。足元には並べられた靴と遺書、そして首もとには今日のために購入した頑丈なロープ。  「…よし!」  何も失敗する要因はない。あとは椅子から飛び降りて、窒息だか首の骨折だかをするだけ。念のためロープがきちんと首にかかっているかもう一度確認し、決意と共に椅子を蹴る。  ガタン、椅子が倒れる音。少しだけたるんでいたロープがぴんと張り、体重分一気に首を締め付ける。ああ、やっと死ねる。  そう思った瞬間。  『はい、残念でした。』  鈴を転がすような美しい声とともに、頭上からミシッと音がする。  「ぁ、やめ…っいたぁっ!!」  吊り下がっていた体が床に落ちる。したたかに腰をうって悲鳴をあげるが、多分痣にもならないだろう。上を見上げると、ロープをくくりつけていた梁がまっぷたつに割れていた。もう一度言おう、まっぷたつに。  おかしいな、この梁は授業の際世界地図とかを吊り下げる用のそこそこ太くて丈夫な梁のはずなんだけどな。  いやそんな梁に人間がぶら下がったら当然折れるだろとか思うかもしれないが、ちゃんとこのためにダイエットしたし強度のチェックもした。その時はぶら下がっても平気だったのだ。今折れたけど。となると原因は一つしかない。  締められていた気道が空気を欲して咳き込む中、ころころころと笑い声が響いた。  『あはは。まただめだったね。あはは。』  「や、っぱ…お前、か…っ!」  涙目で見上げた先にいたのは、美しい黒髪と、何色、と形容できないような色彩の瞳をもつ絶世の美人。名前は傾国さん。ちなみに自称である。そして彼(彼女かもしれない。知らない。)こそはここら一体を治める土地神であり、俺の自殺を合計8回も止めた超本神だ。  「なんで止めるんだよ!いい感じだっただろうが!」  『あはは、だから私の治める土地で無駄な死人を出したくないんだと何回も言ってるだろ。死んでもどうにもならないんだ。止めてやってることを感謝して欲しいな。』  「生きててもどうにもならねぇんだよ死なせろ!祈っただろ!」  『あはは、聞こえなかったな。』  笑っていながら無表情にも思える顔をしながら、傾国さんは俺の首に巻き付いていたロープを指先ひとつでズタズタに千切ってしまう。見る影もなくなってしまった千円いくらのロープを見て、とりあえず今日の自殺は諦めようとため息をついた。
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