自殺志願者は今日も死にたいと神に願う

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 傾国さんとの付き合いが始まったのは、4ヶ月前のことだ。その頃の俺は、はっきり言ってどん底にいた。  三年付き合った彼女に浮気され、一人暮らしをしていたアパートに入った空き巣に全財産を盗られ、次の日にはお隣さんの寝タバコでアパート自体燃えた。実家に帰ろうにも俺に両親はいない。つまり実家と言えるのは既に残骸となったアパートだけだ。そんな両親が残してくれたお金もなくなり、学校も退学しなきゃいけない。  立て続けにそんな不幸に見舞われ、心が折れない人の方が珍しいと思う。俺は折れた。  何もかも嫌になって、もう死んでしまおうと自暴自棄になって。手早く死ねる方法を考えた結果、睡眠薬でも飲んで死ぬか。と思い立った。それで睡眠薬を購入して(財布に一万だけ入ってた。)一瓶まるっと飲もうとした瞬間。  『こらこら、死ぬんじゃないぞ面倒な。』  「ごふっ!!?」  噎せた。それはもう盛大に噎せた。  喉に流れ込もうとしていた錠剤は宙を舞い、まるで花火のように広がって地面に落ちた。さすがに地面に落ちたものをもう一度飲む気はない。気力が削がれ、そういえばなんか声が聞こえたなと顔を上げる。  するとそこにいたのは、この世の"美しい"を煮詰めて作り出したみたいな超絶美人だった。それが傾国さんだ。  『おや、お前私が見えてるね?』  「え、成仏してください。」  『こらこら神に対して失礼だぞ。』  こらこらとか言ってるわりに、その目は微塵の怒りも含んでいない。話を聞いてみると、この超絶美人さんはここらを治める神様で、たまたま散歩していたら俺を見つけて気まぐれに助けたらしい。気まぐれで人の生死を左右しないで欲しい。  「あの、助けてもらってなんなんですけど、俺もう生きる気無くて。なんかもうどうでもいいから死にたいんです。」  『ん?そうなんだね。でも私だって自分の治める土地で死人を出したくないんだよ。皆かわいい子供のようなものだからね……あ、そうだ閃いたぞ。』  そこで超絶美人はぽんと手のひらをうち、最高な笑顔を浮かべた。  『気まぐれに自殺を止め続けようか!千年単位で生きてると、暇なんだよ。どうせ捨てる命なら私の娯楽に使わせておくれ。なあに、気が向いたら殺してあげような。』  「理不尽かよこの傾国」  『傾国だろ。私も美しいと思ってる。あ、傾国さんって呼んでもいいよ。』  あはは。と特徴的な笑いを残して、傾国さんは消えた。あれ?夢だったのかな?と思ったが、それ以来死のうとする度現れるようになった傾国さんを見て、俺は自分の死がコンテンツとなったことを知ったのだった。  そこから4ヶ月。俺は意地でも死んでやるべく努力し続けている。
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