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「ほんとふざけんな、もう何回目だよ。ロープも切っちゃうし…うわ、梁とか弁償できないぞ俺…。」
『気にするな。どうせ"老朽化していてそろそろ新しくしなければいけないな"と思われていた梁だからさ。』
「神様パワーだろそれ。」
『あはは。』
どうせこのあと公務員さんは本当にそう考えてこの梁を片付けるのだろう。この傾国は俺の自殺のために他人の考えさえ操ってしまう。
「なぁ、もういいだろ。もう十分俺の死の邪魔はしただろ。死なせてくれよ。もう金も尽きそうだし、野宿ももう辛いんだよ。」
そう、何より野宿が辛い。家が燃えたので住むところがなくなり、かといってすぐ死ぬつもりだから友達の家に頼ることもしたくない。泊めた次の日に死なれるとかどんなサプライズだ。
といっても公園で寝起きするにも限界はあり、炊き出しや日持ちギリギリの商品を買って食べるのも疲れた。よくもまぁこれだけもったものだ。自分を誉めたい。死ぬけど。
『だから適度に援助してるだろ?服が匂うと言えば雨を降らしてやるし、金がなければ日雇い労働をさせてやったじゃないか。』
「そこまで大層なこと出来るなら今すぐ俺の頭に鉄骨でも落としてくんねぇかな!!」
『やだよつまらない。私が散々手を尽くして、それでも死ぬから面白いんだろ?』
「倫理観って知ってますか」
『あいにく品切だね』
「入荷してくれよ……」
がっくりと肩を落とせば、更に死にたくなってきた。ああ、なんでこんな目に遭わなければならないのだろう。特に悪いことをしてきた覚えはないし、むしろこの前までは運がいい方だったんだけど。その分のツケか。そうか。
重いため息を吐き出すと、傾国さんはからから笑いながらそのため息を食べるような仕草をした。
「何やってんすか。」
『ため息って幸せが逃げるんだろう。勿体無いから食べとこうかなと。』
「貧乏性ですか。」
『いい度胸じゃないか。』
ふっ、と息を吹き掛けられる。これはよく傾国さんがやる仕草だ。何かの神様パワーが働いているのか、これを浴びると少しだけ肩が軽くなる。
「はーー…やめよ。くさくさしてても死ねないわ。明日の死に方でも考えるか。」
『そうしろ。少なくとも学校に不法侵入したことがそろそろばれるぞ。』
「早よ言え!!うわぁほんとだ時間たってる!見つかりませんように!」
『あはは。聞き届けたげようね。』
尚もからからと笑う傾国さんを置いて、おそらく用務員さんがやってくるであろう方向とは逆方向に走り出す。
明日はどうやって死のう。入水に首吊り、練炭、毒、窒息はダメだったから、次は車の前にでも飛び出してみるか。
そんなことを考えつつ、不法侵入した学校から抜け出した。振り向けば、さっきまで俺がいた教室からこちらを見下ろす傾国さん。喋らなければただの美人な神様だ。喋ると倫理をどこかに置いてきた神様だけど。
からからという笑い声を背中に受けつつ、今日の寝床に戻ることにした。逃げきれたのは、多分傾国さんが何かしたのだろうと理解しながら。
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