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おわかれ
ー18:00
「結城くーん、上がっていいよー」
そう言われ1日の仕事が終わった。
あー疲れた!
初めての所はやっぱ緊張するなー!
「今日1日ありがとうございました。」
再度スタッフルームに行き、着替えをする。
カーテン1枚で区切られた場所。
誰でも入れるような所で着替えるのは少し恥ずかしいが、どこで着替えればいいか聞くの忘れた...
ポロシャツを脱ぎ、私服に着替える。
派遣の紙を書いて...これで終わりだな。
ここのスタッフ良かったし、また来れるかな...
なんて考えながら準備していると後ろから声をかけられた。
「結城くん。今日はほんとありがとう。」
「いえいえ!こちらこそ楽しかったです!」
だいたい、派遣できた場所の最後の常套文句だ。
「お客さんが、君の笑顔凄く良かったって話してたよ。僕もそう思う、君で良かったよ。優しいし笑顔もいいし!」
そんなに褒められること、俺してない(笑)
でも、こんな風に俺の笑顔を褒めてくれたのは副社長が初めてだ。
「いつも派遣さんに、渡してるんだけどこれ俺の名刺。」
殴り書きのように、電話番号が書かれていた。
副社長ちょっと字が汚い....
そんなことは置いといて...
「あ、ありがとうございます。」
「この番号、僕の個人的な番号だから」
こいつ、やっぱチャラいー!
口角がフッと上に上がり優しく微笑む。
いや、この笑顔は反則...
「そういや、帰り道わかる?」
あっ、そう言えばここに来る時かなり迷った...
住宅街の中にひっそりあるから初めは分からなかった。
しかも駅から歩いて15分くらいだ。
都会だからと言っても、15分も歩いたらわからない。
「すいません...あんまり分からないんですよね...」
「じゃぁ玄関の目の前で悪いけど説明するね。」
いそいそと支度をし、自動ドアで軽く他のスタッフに挨拶をする。
階段を上るとすぐに道路だ。
副社長はそこまで付いてきてくれた。
「ここの道路を右にまっすぐ。すぐ突き当たりを左に曲がって...」
ふむふむ、わからん。
まぁ適当に歩けば着くか。
「分かりました!今日はほんとありがとうございました。もし良ければまたお仕事したいです。」
これは本音だ。
ほんと楽しかったし、また仕事がしたい。
「うん。ありがとう、ほんと君の笑顔とっても素敵だ。」
そういうと、先程の笑顔とスラッとした綺麗な手を出される。
えっ?一瞬戸惑った。
「あくしゅ」
あっ、握手...
とりあえず握手をする。
大きくて暖かい手。少しカサカサで仕事をしてる人の手だった。
「また何かあればよろしくね、結城くん。」
「はい!」
会釈をして、その場から歩き出す。
少し振り返ると、まだ手を振ってくれていた。
面白い副社長だったなぁ....
そう思って仕事は終えた。
この時の俺は、副社長とあんな関係になるなんて思いもしなかったー。
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