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「…」
ストレートすぎる暴露話に、戸惑った私は言葉を返せなかった。優弥さんも、最初に私を見た時からもう気持ちが動いていたと言ってくれた。マスターもそう感じていたのなら、それは本当かもしれない。
「気の進まないお見合いは結構してたと思うけど、ここに来てグズグズしてたのはあの日が初めてだった。そうそう、あの時ひろ先生も居てね、ほら、藤岡先生。彼の千菜ちゃんみたいに、大切にできる彼女が欲しい、って言ったの、森下ちゃん」
優弥さんには会えないけれど、私の知らない優弥さんの話は、彼の隣に居るように鼓動を速める。目の前に置かれたアレキサンダーは、きっとほんの少しのアルコールしか入っていない筈だ。この心臓の響きはアルコールのせいじゃない。
「何があっても、二人には幸せになってほしい。どんなことが起きても、最期まで、森下ちゃんを信じてやって」
「…どんなこと、って何ですか?」
常連客を心配するトーンではない言葉に、グラスを置きかけた手が止まる。仕事が忙しいはずの彼の周りで、何かが起きている?
「…あの、マスター、何かご存知なんですか?」
店のドアが開く音がして、振り返ると健斗さんが現れた。
「あれ、こんばんは莉緒さん。一人…ですよね。すみません、兄貴バタバタしていて。玲さん、昨日兄貴からこれ頼まれて」
健斗さんは、マスターの方に茶封筒を差し出した。
「渡せばわかる、って。兄貴、しばらく病院から離れられないかもだから」
「病院?優弥さん、どうかなさったんですか?」
健斗さんは、一瞬バツの悪そうな顔をして私を見下ろした。
「あ…。えっと、まだ取り込んでるのかな。さっき、親父も行ったとこだから…」
健斗さんのお父様は、義理だと言っていたけれど優弥さんのお父さんでもある。
「マルモリの顧問…兄貴のおじいさん、昼間倒れたみたいで。親父のとこにも、連絡があったところです」
思わず椅子から立ち上がった私は、そんな大事も知らない自分が、妙に情けなく思えた。
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