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扉の先に
「結城社長が僕の父親なのか、祖父の息のあるうちに確かめたいんです」
久しぶりに会う古賀の義父は、そう言った俺の言葉に臆するそぶりを微塵も見せず、いつものように落ちついた佇まいでソファーに座っている。片柳さんもその横で、義父よりも更に冷静に状況を伺っていた。
「ご存知でしたら、教えてください。わからないまま、祖父のことを後から恨むようなことはしたくないんです」
もしかしたら、祖父は全てを知っていて、母と結城社長が別の人生を歩むように仕組んだのかもしれないと思っていた。俺がマルモリに来ざるを得ないようにしたのも、結城莉緒と逢わせたのも全て祖父の策略だ。それでもせめて、まさかと思う事態にはならないことを願っていた。
「君のおじいさんを、恨む必要は全くない。君が結婚したいと思っている女性とも、結婚できる」
義父は、澱むことなくはっきりと言った。片柳さんも、その意味が解っているように表情を変えなかった。
「これから話すことが真実だと証明できるのが片柳だから、ここに居てもらう。ただ、話すには条件がある」
「…条件?」
義父は、ジャケットの内ポケットから封筒を取り出した。
「葵のことを許してほしい。君のおじいさんのことも結城氏のことも、恨まないでほしい。一番責任があるのは、私だ」
久しぶりに、義父の口から母の名前を聞いた。危篤の祖父を放っておいて、こんなところで聞くべき話なのかもう一度迷った。でも、今聞かなければきっと先に進めない。
「…許すことも恨まないことも、内容によります」
おそらく初めて、義父に抵抗した。
莉緒の手を離さなければならなくなったら、怨情に目をつむる選択肢はないと思っていた。
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