箱の中身

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 お見合いの定番だから仕方ないけれど、森下(もりした) 優弥(ゆうや)さんは、私の趣味や好きなこと苦手なことを、程よいテンポで聞いてくれた。  仕事上、いつもはどちらかと言えば話を聞く側の私は、違和感のあるこの会話の流れに、相変わらず少し戸惑いながら慎重に答える。 「結城(ゆうき)さんは、おしとやかというか、おとなしい方なんですね」    話の続かない状況に、彼が下した私への評価も定番のものだった。  完全に、私が(かぶ)っている(つまらない系の)猫を見ている。無論、被らなければこの場所には来ないのだけれど。 「いえ、おとなしいなんて。何て言うか、緊張してしまって。家では、そんな風に言われたことはありません」 「じゃあ、どんな風に」 「家族からは、面白いとか変わっているとか、そんな風に言われます」 「面白い?」    面白い、と言うニュアンスは楽しいのではなくて、奇妙と言った感じだけれど、言葉だけではそこまでわからないのが幸いだった。  二つ上の姉にはいつも、自分の立場や状況に合った生活をすればいいのに、と呆れられている。 「姉は、家の考えに沿った性格なのですが、私は全然違うので…」 「結城さん…莉緒(りお)さんは、沿わないんですか?」  これ以上、自分のことを詳しく知ってもらわなくてもいい。ご縁があるのは、今日までの筈なんだから。 「沿うか沿わないかと言えば、沿わないのかもしれません。まだ、考えが子供で」    当たり障りのない返事をしてこの話題を終わらせるつもりで、紅茶のソーサーに手を伸ばす。 「そうですか。僕は、家の考えに自分を沿わせる必要はないと思いますよ」  思わぬ返事に、伸ばした手が止まる。  確か最近、親族企業の専務になったと聞いた彼は、家の考えに沿ったんじゃないんだろうか。 「どんな場所に居ても、心は自由に生きることが、大切ですよね」  久しぶりに、心の扉を叩かれるような言葉を聞いた気がして、私は彼から目を逸らせなかった。
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