あわい

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 もはや言い返したい気持ちよりも、哀願に支配され加藤を見上げた。その私の目に映ったものは、私が陽子のために用意していた指輪の小箱だった。加藤はそれを目の前で握りつぶした。 「先生は、あの勝利を手土産に、実に幸せな結婚生活に踏み出そうとしている。恵比寿のマンションは良かったかい。高いところから下界を見下ろすのは気持ちがいいだろうなぁ」  言いながら、加藤は私の体を持ち上げ、何かの上に乗せた。痛めつけられた両手両足の激痛で私は呻き続けた。  私が乗せられたのは、コンベアの上だった。コンベアの先には、巨大な裁断機が見える。ただ呆然とその鋭利な刃を見た。 「一回では済まない。まずは足を切り離す。次は胴体、最後は首だよ。ゆっくりと、ゆっくりと」  加藤はレバーを引いて、コンベアを動かし始めた。逃げようと体をよじらせる俺を、ものすごい力で押さえつける。私は叫んだ。 「やめろ! やるなら、あの男をやればいいじゃないか! なんで私を……」  叫んでから、私は己の矛盾に気づいたが、もはや遅い。加藤は顔を歪ませ、私の耳元にささやいた。 「先生、本音が出たね。もはや先生は廃人だよ。正義派弁護士としての廃人だ」  私が正気を保っていたのは、その裁断機にかけられる瞬間までだった。私の矜持とともに、私の肉体も砕け散った。
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