それから

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それから

あの手紙を読んで、夫が一週間後に帰ってきて 3年が過ぎた。 夫とは相変わらず別の寝室。 掃除をしていたら、ヘッドレストの小さな引き出しから、封筒がはみ出しているのが見えた。 「だらしないなぁ、もう!」 封筒をしまい直そうとした時、写真が落ちた。 海辺で、ハイビスカスの花を頭に飾った小さな女の子。 封筒の表書きを見ると、私書箱宛だった。 あ、そういうこと。 続いてたんだ。 そういえば、今年のゴールデンウィークは友達と遊びに行った。男同士の世界遺産めぐりとか。 思い立って、夫のカードの明細を見た。 【航空券一枚、沖縄】 行ってきたんだ。 私は封筒に写真をしまい、もとの引き出しにきちんとしまった。 見なかったことにする。 3年前のあの日からしばらく夫は、元気がなかった。 私はあえて、彼女の話は一切しなかった。 無視することに決めたから。 今回の、写真を送ってきて夫を沖縄に呼んだことについても知らないフリをする。 私の視界や思考に、これっぽっちも彼女や、夫が彼女に産ませた子どものことを入れない。 それは夫を愛しているからではなく、子どもたちとこの家庭を壊したくないからだ。 『私と伸一さんは本当に愛し合っています』 そのことを私は永遠に認めない。 表向きは仲のいい夫婦で家族で、この後もずっと過ごしていく。 誰の入る余地もないくらいの、ありふれた幸せ。 私はそれを守り抜く。 そうやって、妻をこなしていく。 これからも。 ー終わりー
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