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落ちこぼれのヴァンパイア
「何を拾ってきてんだ?! ここは教会だぞ! 教会!! お前何したのか分かってんのか!!」
怒鳴り声が僕を起こした。目を開ければ僕の頭上で長髪銀髪の人と金髪の少年が言い合いをしている。
「おはよう、君の名前は?」
さらりと垂れた髪をかきあげて銀髪の人が僕に話しかけた。
「おいこら無視すんじゃねーよ」
金髪の少年が銀髪の人の肩を掴み僕を睨みつける。怖くて答えられずにいたら銀髪の方が「取って食ったりしないよ」と優しく諭された。
「……トーマ……」
掛けられた布団の端をつまみながら小さな声で呟く。すると銀髪の人が嬉しそうに目を輝かせて笑った。
「そう! 君はトーマって言うんだね! 僕はランドルフ。よろしくね」
握手を求められ、どうしようかと思って様子を伺っていれば手を引く様子を見せなかったので無言の圧に負けて応じた。だけど力加減を間違えて、手の甲を鋭い爪で傷つけてしまう。
「熱烈な歓迎だね」
手の甲から流れ出る血を僕に向けられる。ポタポタと垂れる血がシーツを汚した。
「まだ足りないのかな?? 食いしん坊だね、トーマは」
「ご、ごめんなさい……!! そんなつもりじゃ……」
不思議と今はお腹が満たされていた。そして、起きる前と今で間違いなく僕は力に満ち溢れている。それがなぜなのかは分からない。
「や、め、ろ。ランドルフ! これ以上こいつにエサを与えてどうすんだよ!! まさか飼うとか言い出すんじゃねーだろうな?? 何でもかんでも気に入ったものを持って帰るんじゃねえって何度言ったら分かるんだ! しかも今回はヴァンパイアじゃねぇか! 俺は反対だからな!!」
金髪の子がランドルフの手を取り上げタオルを当てる。血を止めようと手当をしているようだ。そして僕のことを鋭く睨み付けてくるから、かなり警戒している。
「こっちみんなよ、化け物が」
「ば、化け物って僕のこと??」
「あーそうだよ、ランドルフの血を飲んだあげく俺の血まで飲もうとしてたんだからな!!」
……全くもって覚えていない。お腹が空きすぎると僕はここまで図々しくなるのか。
「なんだよ、その顔!覚えてねぇのか?!」
「ひぃん! ごめんなさい~」
胸ぐらを掴まれて僕は両手を上げ無抵抗をアピールした。それでも彼が手を離してくれる気配はない。
「アーリン、やめなさい」
すごく怖い気配を察知した。アーリンは手を離し僕は苦しみから解放される。
「ケホッ……ケホッ……」
「あの気高いヴァンパイアが僕に土下座して血を懇願したんだよ? ふふっ。それに僕達は修道士だ。迷っている子羊がいれば救う義務がある。そうだろ、アーリン」
……え、今、笑ったよね? やっぱ間違いじゃない。顔を見れば笑いをこらえようと必死に口を噤んでいる。
「……お前、土下座までしたのか……?」
あーあ……アーリンまで鋭い目線から打って変わって同情の目つきに変わった。
「……どうせ、僕は落ちこぼれのヴァンパイアですよー」
「なら、仕方ないな飼うか!」
アーリンが開き直って部屋を出て行こうとした。
「え? ちょっと待って! そんな簡単に決めていいものなの?!」
「だって切羽詰まってるんだろ? 俺、礼拝堂の掃除しなきゃだし」
スタスタと去っていくアーリンに対して、あの警戒心はどこに行ったのかと聞きたくなる。後を追い掛けようとすればランドルフに止められた。
「トーマ、ここに住むなら僕の血以外飲まないこと。それだけは約束してくれる?」
「え、あ、うん。わかった」
こうして、シスター2人とヴァンパイアの奇妙な生活が始まった。
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