トリック・オア・トリート!

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トリック・オア・トリート!

 やっぱり僕は礼拝堂には近づけない。何回か掃除をアーリンに押しつけられたけどできるはずもなかった。だって礼拝堂には十字架があるし入るだけで気分が悪くなる。もちろん、日光の下を歩けるはずもない僕が教会の中でできる事は限られていた。 「トーマ! 今日はハロウィンだぜ。お前仮装してるようなもんだから玄関先でお菓子配ってこいよ! 子ども達にモテるぜ?」  アーリンからお菓子がいっぱい入ったバケットを渡され玄関に向かう。 「仮装じゃないんだけどなぁ……」  マントを片手でバサバサと仰ぎながら歩き、ぶつくさ文句を言っていた。タダで美味しい血を飲ませてくれるし寝床だってある。昔、森の中で野宿した頃に比べたら十分快適な生活じゃないか。 「あれ? そういえば今日ランドルフの血を飲んでないな。それに姿も見てないし」  血を飲んでいないと思い出したらお腹が空いてくるし、何より喉が渇く。クンクンと鼻を引きつかせて、ランドルフから漂う血の香りを探したけど教会にはいなかった。どこに行ったのだろう? 「こーんにちはー!!」  ……大変だ。教会にお菓子を取りに来た子供たちがやってきてしまった。早く行かないとアーリンに怒られる……!   「はーい!」  走って教会の入り口に走れば、魔女やジャック・オー・ランタン、子猫など様々な仮装をした子ども達がお菓子を待っていた。 「わぁ~本物のヴァンパイアみたい!」  君たちの目の前にいるのは本物のヴァンパイアですよーと心の中で呟きながら笑ってごまかす。 「あはは、そう言ってもらえて嬉しいよ。それより何しにここに来たのかな??」 「あ、そうだった! みんないくよ、せーのっ……」 「「「「「「トリックオアトリート!!」」」」」」 「はいはい、順番に並んでね〜」  用意していたキャンディを子ども達に渡す。1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ……6個目のキャンディを渡した時、他の子達はその子を置いて次の家に行こうと走り出していた。だけど黒髪の少年1人だけは、追い掛けようとせずキャンディを握りしめたまま立っている。 「どうしたの? みんな行っちゃったよ??」  心配して声をかければ少年は一目散に教会の中へ走り出した。 「あっ! え?? ちょっと!」  慌てて少年の後を追い掛けたけど、子どもなのに不思議と追いつけない。
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