やめられない

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やめられない

「っつ……ぁ」  僕の八重歯が突き刺した瞬間、ビクリと身体を震わすアーリン。そこから先は、アーリンのことを忘れて血を(むさぼ)った。  口辺りがまろやかで甘くとろける魅惑な味……ランドルフのビターな甘さと違ってスイーツのような甘い味に夢中になり、もっと、もっと欲しくなる。  そろそろやめなくちゃ死んじゃうかもしれない。せっかく心を開いてくれたのに、また閉ざしてしまうかもしれない。頭の中では分かっていても行動に移せなかった。  アーリンを抱き締める手は離れようとはしてくれないし、噛みつく八重歯も張りのある肌を味わっている。どうしよう、とてつもなく美味しい。ランドルフと同じで格別な血だ。もう飲めないかもしれないと強く思えば思うほど、アーリンから離れることができなかった。 「あ、なんだ、これ、あっつぃ……」  僕に自覚は無いけれど、ヴァンパイアが血をいただく時、媚薬のようなものが八重歯から分泌されるらしい。  それは少しずつ身体全体を犯していき相手を興奮させる。ヴァンパイアがいかに楽して人間から血をもらおうと生み出した進化。それが今、アーリンを蝕んでいた。  顔を赤らめて身をよじらせ、薄らと汗が滲み出ている。その汗すらもスパイスとなって僕の舌を満足させた。あごから垂れ落ちてくる水滴が何かも知らず、アーリンの血に夢中になる。  さらに身体を密着させれば硬いものが当たった。無意識に手をのばし礼服越しに刺激する。白濁を吐き出せば、もっともっと美味しくなることを知っていたからだ。ランドルフに試そうとしてできなかったことをアーリンで試そうと企む。 「ちょ……なにやって、あっ、あっ、んんっ:--!!」  アーリンはランドルフに気を遣って自慰をすることがないからか思った以上に早かった。そして僕の予想通りに甘美な血が下から湧き上がってくる。その血を味わおうとした瞬間―― 「……と、とお、ま……」  僕を呼ぶ声に反応して我に返り、吸うのをやめた。 「っご、ごめん。ちょっと吸い過ぎた! 大丈……ふごっつ!!」  お腹に見事な修道士パンチが決まる。もう一度、顔を上げた時アーリンの顔は真っ青で震えていた。吸っていた首元を押さえ、どこか遠くの1点を見つめていて目線が合わない。  声をかけようか迷っていれば今度はアーリンのビンタが僕の頬にヒットする。 「いつまで吸えば気がすむんだ! 加減ってものを覚えやがれ!! この変態ヴァンパイア!!」  アーリンは僕を突き飛ばし走り去ってしまった。  すぐに謝りたくて後を追いかけようとしたけれど、振り返ればそこにいないはずのランドルフがいる。そして、トントンと、人差し指で口元を指さし、にっこりと笑った。
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