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僕は、親がぶつぶつ言うのでとりあえずおとなしくしていた昨日のうちに、反省文らしきものをでっち上げ、今日は一日ゲーム三昧だったが、さすがに二日間の幽閉にも飽きて(母親が専業主婦で、終日目を光らせているのだ)、晩ご飯のあとこっそり勝手口から抜け出した。親父が帰るのは遅いから、玄関のチェーンは掛けられない。それまでの、束の間の自由。怒られるだろうが。
チャリを駆って隣町まで行き、繁華街をそぞろ歩いていると、悪目立ちしている突飛な格好の兄ちゃんにビラを渡された。ライヴの案内だった。
僕はロックは好きだが、まあそこそこ聴くのが好きという程度で、楽器など触ったこともなかったし、もちろんナマのライヴも観たことがなかった。ビラに書かれた、アマチュア・バンドそのものという剽軽な名前の羅列を見て、なぜ行ってみようという気になったのかわからない。ただの暇つぶしのつもりだったのかも。ともあれ僕はさして考えもせずに、そのライヴ・ハウスに足を向けたのだった。
店の前にチャリを止めたものの、堂々と入れる歳ではなかったからどうしようかと考えた。そんなとき、ちょうど僕の前で五、六人のグループが入ろうとしていたので、何食わぬ顔で後について一緒に入った。僕はわりと長身の方だったし、見ていると一人ずつ金を払いはじめたから。
生まれてはじめて足を踏み入れたあの特殊な空間は、暗くて、熱っぽいざわめきに満ちていて、ゲーセンなどとは全然違う、妖しいときめきを感じる場所だった。
僕はできるだけ何気ないふうを装いながら、そっとあたりを見回してみた。別段、奇抜な格好をした奴はいない。長髪が多いのはもちろんだが、そうでない奴もいるし、女の人もたくさんいた。よくよく見れば、鼻とか唇に痛そうなピアスをつけた兄ちゃんもいたが、僕は怪しそうな奴とは目を合わせないようにして、そろそろと壁際のカウンターの方に寄った。さすがに酒は呑めないので(これはまだ、美味いと思えない)、コーラをもらって、フロアの真ん中あたりに陣取った。
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